コラム

2024年問題⑥_タクシー・ハイヤー運転者の「改善基準告示」改正 ~36協定上限規制の猶予期間終了まであと3日!~

シリーズ2024年問題_プラットワークスのコンサルタントと元労働基準監督官である社労士がわかりやすく解説していきます(今回は長編です)
2024年3月28日掲載

36協定上限規制の猶予期間終了まで残り数日となりました。

自動車運転の業務に従事する方は、一般的な労働者とは異なる、様々な労働時間のルールが定められています。
運転時間や勤務時間インターバルについて定めた「改善基準告示」を遵守する必要があります。

今回のコラムではタクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示の見直しポイントについてまとめていきます。
ぜひ最後までご覧ください。

はじめに


タクシー運転者の1日の流れとは、どのようなものでしょうか。
出社から退社までの一般的な1日の流れの参考例をみながら、今回の改正点について理解を深めていただけますと幸いです。


日勤勤務と隔日勤務の違いとは

 タクシー運転者の勤務時間には、大きく分けて「日勤勤務」と「隔日勤務」の2つがあります。

 「日勤勤務」とは、一般的なサラリーマンの勤務時間と同様の勤務形態になります。すなわち、朝から夕方までの乗務で、また翌日も同じように朝から夕方まで乗務することになります。こうした勤務形態を「日勤勤務」といい、なかでも「昼日勤」といいます。昼日勤のちょうど逆、つまり夕方から翌朝までの乗務を繰り返す勤務形態を「夜日勤」といいます。
 
 一方、「隔日勤務」とは文字通り「1日おきに勤務する」ような勤務形態です。例えば、朝7時半に始業して、翌朝4時半に終業すると、基本的にその日はそのまま休息期間となり、また翌日の7時半に出社、始業するといった勤務形態になります。
 
 採用時の募集要項にもよりますが、タクシー運転者は、会社と相談しながら、これらの勤務形態から自分にあった働き方を選ぶことになります。


 

図解の引用元:タクシー・ハイヤー運転者の 労働時間等の改善のための基準(基礎編)

 

タクシー運転者の仕事を理解する上で、拘束時間、休息時間という考え方(ルール)があります。
拘束時間と労働時間、休息時間と休憩時間のちがいについて、以下にまとめます。

拘束時間、労働時間とは

◆拘束時間って?
 営業所に出社(始業)してから、仕事を終えて営業所から退社(終業)するまでが、拘束時間です。
 タクシー運転者は、会社の外で働いている時間が非常に長い一方で、その運行は厳密に管理されており、休憩時間であっても車両から長時間離れることはあまりできません。つまり、休憩といえども運転者自身がすべて自由に使える時間というわけではなく、あくまでも会社の指揮系統下にある拘束時間であることになります。

◆労働時間って?
 労働時間とは、拘束時間から休憩時間を除いたものになります。 したがって、実際にハンドルを握って運転をしている時間だけでなく、駅付けしたりしている時間や、出庫前の車両点検や清掃、帰庫後の営業報告や洗車なども、すべて労働時間に含みます。

休息時間、休憩時間とは

◆休息期間って?
 休息期間とは、業務から解放され、運転者にとってまったく自由になる時間のことです。わかりやすくいえば、ある日の終業時刻から、次の始業時刻までの間のことを「休息期間」といいます。

◆休憩時間って?
 休憩時間とは、昼食や夜食をとる時間や仮眠時間など、拘束時間中に自己判断で身体を休める時間のことをいいます。出庫から帰庫までの間の休憩時間は原則として3時間以内と定められています。

2024年4月以降の時間外労働の上限規制


○2024年4月以降、自動車運転者は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
○一般の労働者と異なり、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする規制及び、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されません。

※自動車運転の業務に従事する労働者は、別途、「改善基準告示」を遵守する必要があります。

改善基準告示とは

改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)のことを言い、
自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることから、
トラック、バス、ハイヤー・タクシー等の自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため拘束時間の上限、休息期間について基準等が設けられています。

改善基準告示は、法定労働時間の段階的な短縮を踏まえて見直しが行われた平成9年以降、改正は行われていませんでしたが、令和4年12月に自動車運転者の健康確保等の観点により見直しが行われ、拘束時間の上限や休息期間等が改正されました(令和6年4月1日施行)。

「改善基準告示」制定の経緯

 図解の引用元:自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト          

2024年4月1日施行 タクシー・ハイヤーの「改善基準告示」見直しのポイント

 タクシー運転者には、改善基準告示第2条第1項から第4項までに規定する拘束時間、休息期間等の規定が適用されます。これらの規定は、脳・心臓疾患に係る労災認定基準等を踏まえ、過労死等の防止の観点から、延長できる拘束時間の新たな限度基準が設けられました。

図解の引用元:改善基準告示の見直しについて(参考資料)厚生労働省

その改正として、以下にポイントをまとめます。なお、ハイヤー運転者については、下記表は適用されません。

◆タクシー運転者に適用される改善基準告示の改正概要【拘束時間・休息期間】

日勤勤務者の拘束時間及び休息期間(新告示第2条第1項)
隔日勤務者の拘束時間及び休息期間(新告示第2条第2項)

現行 改正後(2024年4月1日~)

日勤勤務

1か月の
拘束時間

 299時間以内

 288時間以内

1日の
拘束時間
 原則13時間以内
 (上限16時間)

 原則13時間以内
 (上限15時間、14時間超は週3回までが目安)

1日の
休息時間

    
 継続8時間以上

 

 継続11時間以上与えるとう努めることを基本とし、9時間を下回らない

 

隔日勤務

 

1か月の
拘束時間

 262時間

 現行通り

2暦日の
拘束時間

 21時間以内

 22時間以内、かつ2回の隔日勤務を平均し1回当たり21時間以内

2暦日の
休息期間

 継続20時間以上

 継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、22時間を下回らない

 

◆タクシー運転者に適用される改善基準告示の改正概要【車庫待ち等の自動車運転者】


 「車庫待ち等の自動車運転者」の定義
 車庫待ち等の自動車運転者とは、顧客の需要に応ずるため、常態として車庫待ち、駅待ち等の形態によって就労する自動車運転者をいい、比較的作業密度が薄いことに等により、帰庫させ仮眠時間を与えることが可能な実態を有するため、一定の要件の下に最大拘束時間の延長が認められています。
 

車庫待ち等の自動車運転者について(新告示第2条第1項、第2項)

現行 改正後(2024年4月1日~)
車庫待ち等の自動車運転者 日勤勤務

 

◆1か月の拘束時間 299時間以内
 (労使協定により、322時間まで延長可)
◆1日の拘束時間
 以下の要件を満たす場合、24時間まで延長可
 ・勤務終了後、継続20時間以上の休息期間を与える
 ・1日16時間超が1か月に7回以内
 ・夜間4時間以上の仮眠時間を与える
 (18時間超の場合)

 

◆1か月の拘束時間 288時間以内
 (労使協定により、300時間まで延長可)

◆1日の拘束時間
 現行通り

隔日勤務

 

◆1か月の拘束時間  262時間以内
 (労使協定により、270時間まで延長可)
 (さらに、※の要件を満たす場合、20時間を加えた時間まで延長可)

◆2暦日の拘束時間
 ※の要件を満たす場合、24時間まで延長可

※・2暦日21時間超の回数が1か月について7回以内
 ・夜間4時間以上の仮眠時間を与える

 

◆1か月の拘束時間  262時間以内
 (労使協定により、270時間まで延長可)
 (さらに、※の要件を満たす場合、10時間を加えた時間まで延長可)

◆2暦日の拘束時間
 ※の要件を満たす場合、24時間まで延長可

※・2暦日22時間超の回数及び2回の隔日勤務の平均が21時間超の回数が1か月について7回以内
 ・夜間4時間以上の仮眠時間を与える

(車庫待ちの等の要件)
 ・事業場が人口30万人以上の都市に所在していないこと(*)
 ・勤務時間のほとんどについて「流し営業」を行っていないこと
 ・夜間に4時間以上の仮眠時間が確保される実態であること
 ・原則として、事業場内における休憩が確保される実態であること
  *今回の改正に伴い、「人口30万人程度以上」を「人口30万人以上」に改める等の見直しを行っています。
  *新告示の適用の差異、現に車庫待ち等の自動車運転者として取り扱われている者の属する事業場については、当該事業場が人口30万人以上の都市に所在している場合であっても、当分の間、当該事業場の自動車運転者を車庫待ち等の自動車運転者に該当するものとして取り扱います。

 

予期し得ない事象への対応時間の取扱い(新告示第2条第3項)

 新告示では、タクシー運転者に適用される基準においても、予期し得ない事象への対応時間の取扱いが新たに設けられました。
 その趣旨や、「予期し得ない事象への対応時間」の定義については、トラック運転者やバス運転者に適用されるものと同様ですが、タクシー運転者に適用される基準においては、予期し得ない事象への対応時間を、1日の拘束時間及び2暦日の拘束時間*²から除くことができることとされました。また、予期し得ない事象への対応時間により、1口の拘束時間が最大拘束時間を超えた場合、勤務終了後、1日の勤務の場合には「継続11時間以上」、2暦日の勤務の場合には「継続24時間以上」の休息期間を与える必要があります。

*²:タクシー運転者に適用される基準においては、運転時間及び連続運転時間に関する定めはないことから、予期し得ない事象への対応時間をこれらの時間から除くことができる旨の定めも設けられていません。

 

休日労働(新告示第2条第4項)

 旧告示からの変更はありません。

 


◆ハイヤー運転者に適用される改善基準告示の改正内容

 「ハイヤー」とは、「一般乗用旅客自動車運送事業の用に供せられる自動車であって、当該自動車による運送の引受けが営業所のみにおいて行われるもの」をいいます。
 ハイヤー運転者については、その勤務の実態を踏まえ、タクシー運転者に適用される基準を適用しないこととした上で、(新告示第2条第5項)、労使当事者が時間外・休日労働協定(36協定)を締結するに当たって遵守しなければならない事項等を定めています(新告示第3条)。

図解の引用元:改善基準告示の見直しについて(参考資料)厚生労働省

まとめ

今回のコラムではタクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示の見直しポイントについてまとめてみました。
自動運転者の基礎統計を参考とするに、タクシー運転者は全産業平均だけではなく、運送業においても、他の業態と比べて年齢が高い傾向があります。そのような中、昨今は、運転手の不足による、新たな担い手(女性ドライバーの活躍)推進などが行われています。プラットワークスでは運輸業の皆様へ、改善基準告示の遵守に向けたコンサルティングを行っております。

図解の引用元:自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト


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