コラム

2024年問題⑧_建設業の時間外労働の上限規則

建設業界は少子高齢化・人口現職に伴う人手不足により長時間労働が常態・習慣化している実態があります。下記の図の通り、建設業就業者は他の産業と比べても労働時間が多い一方で、就業者数は減少の一途をたどっているため、新たな働き手を確保するためにも、より一層の働き方改革が求められています。

※日本建設業連合会「建設業の現状」より年間労働時間の推移

※日本建設業連合会「建設業の現状」より建設業就業者数の推移

 

2024年4月以降、労働基準法の法改正に伴い、建設事業の時間外労働の上限規則が適用されることとなりました。前のコラムで述べた通り、一般の業種については20194月から時間外労働の上限規則が適用されていましたが、建設事業については20243月までその適用が猶予されていました。長時間労働が常態化していることや、生活に欠かせない住居やインフラ整備があるため多くの関係者への配慮が必要となる影響度の大きさ、そして労働力確保のため、労働環境や条件の見直しなどを行い急激な変化に対応できるように5年間の猶予がありました。

では、時間外労働の上限規制は建設事業においてはどのような特徴があるのか、また、事業主としてはどのような対応をしていくとよいのか、詳しく見ていきましょう。

建設の事業とは?

では、そもそも規制の対象となる建設の事業とはどのような事業を指すのでしょうか?労働基準法上の「事業」の概念をもとに整理すると、以下の通り定義されています。

・工場など一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体を指す。

・一の事業であるかは主に場所的観念により決定すべきで、場所的に分散しているものは原則として別の事業としてとらえる。

・場所的に分散していても、規模が著しく小さく、組織的関連などを勘案して一の事業といえるものについては、上位の機構と一括して一の事業として取り扱う。

一般的には建設現場で行われる事業を指すことが多いですが、上記の通り場所的に分散していても、本社で設計等の業務を行っているといえる場合は、現場で直接的に建設に関する業務に従事してなくても、建設の事業として取り扱うことがあります。

労働時間の考え方

労働時間とは基本的に使用者の指揮命令下にある時間のことをさしますが、労働者が現実に活動させていなくても、使用者の指揮命令下にある時間は労働時間となります。そのため、直行直帰や移動時間に関しては移動中に業務の指示や従事もないことや自由な利用が保障されているため、労働時間にはあたりません。そして、建設の事業においては以下のような時間についても労働時間になりえます。


・手待ち時間

使用者の指示があった場合即時に業務に従事する必要があり、労働から離れることが保障されていない状態で待機しているため、労働時間にあたります。

・作業報告書の作成時間

作業報告書の作成は使用者の指揮命令下において行われている場合、業務の一部として労働時間となります。

・着替え、作業準備等の時間

使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為をさします。作業開始前の朝礼の時間や準備体操の時間、作業終了後の掃除時間も労働時間となります。

・安全教育などの時間

参加することが義務上義務付けられている研修や教育訓練を受講する時間も労働時間に当たります。(新規入場者教育やKYミーティングなど)

時間外労働の上限規制

建設の事業の時間外労働の上限規則は原則として45時間、年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができません。

例外として、労使が合意する場合(特別条項)では月45時間、年360時間を超えて時間外労働を行うことが可能ですが、以下の上限を守らなければなりません。

①45時間超の時間外・休日労働は年6回まで

②時間外労働は年720時間まで

③時間外・休日労働の合計が月100時間未満(単月)

④時間外・休日労働の合計が複数月平均で月80時間以内(2~6か月平均)

参考:厚生労働省「建設業の時間外労働に関する上限規制わかりやすい解説」

 

※厚生労働省「建設業の時間外労働に関する上限規制わかりやすい解説」より

残業規制に対応するために事業主ができること

では、建設現場において、時間外労働の上限規制を守り、長時間労働の常態化を防ぐために、事業主ができることはどのようなことがあるでしょうか。主に以下の4点が挙げられます。

・作業効率化

アナログでの管理が多い建設業界。生産性を高め、限られた時間内で効率よく工事を進めることが求められます。そのためには、事務作業をはじめとした業務のデジタル化を進めることや、施工計画の精度を上げたり顧客からの要望や変更記録を共有できる仕組みづくりを行うことで手戻り工事を防止したり、現場と事務所間の情報共有を円滑にしたりするなど、業務全体の最適化を図ることが重要です。

・適切な工期の設定

建設工事の工期は、発注者からの依頼を受けて、工事内容や施工条件、必要資源などを考慮しながら設定しますが、中には工期ありきで無理のある工程を組まざるを得ないケースも少なくありません。結果的に長時間労働を招いてしまう悪循環に陥ってしまうのです。適切な工期の設定のために発注者は建設業の時間外労働の上限規則の適用に向けた環境整備に協力することが求められます。各工程に後れを生じさせる事象などについて受注者から報告を受けた場合、双方協議の上、契約変更を行う。また、受注者も建設工事に従事する者が長時間労働や週休2日の確保が難しい工事を行う前提とする、著しく短い工期とならないように適正な工期で請負契約を締結することが必要です。

・労働環境の改善

待遇の改善、週休2日の確保や有給休暇の取得促進などの働き方改革を進めることで、人材の定着や確保につなげることができます。また、労働災害が多い業種でもある建設業において、安全衛生設備の準備安全に働ける職場環境づくりを行うことも重要です。

・適切な労働時間の管理

建設現場では従業員の労働時間の管理が難しいことが多々あります。正確な労働時間の把握のために、勤怠管理システムを導入することで勤怠管理の適正化や労働時間の管理を効率化することができます。特にクラウド型勤怠システムは現場直行直帰や在宅勤務にも対応でき、法改正にも対応した時間外労働・休日労働の集計も自動化できるため、近年主流となっています。

 

今回のコラムでは建設業の時間外労働の上限規則について詳細を解説しました。建設業界における従業員の方が安心して働き続けられる職場環境を構築する上で、人事労務の諸問題に精通した事業場外の専門家を活用することは有効です。

弊法人では自社開発のGoogleスプレッドシートを用いた勤怠システムを提供しております。法令への順守のほか、各企業の雇用形態・勤務形態や労務管理の状況に応じて柔軟にカスタマイズできる勤怠管理・シフト管理システムを運用しているため、企業に合わせた最適な労務管理を実現することができます。

勤怠管理システム開発・提供 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所

弊法人では、職場における従業員の安全と健康を確保するために、従業員の長時間労働による健康障害防止に向けた「安全衛生管理体制の構築支援」の支援も行っておりますので、ぜひご活用ください。

健康管理 - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)

また、弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。職場における心身の健康に不安を感じている従業員にとって、相談することで心の負担を軽くするプラットフォームとして活用いただくことができます。

Plattalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

Plattalks - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)

 

前へ
コラム一覧へ戻る
次へ