もくじ
「時間を忘れるほどに何かに没頭し、気づけば数時間が経っていた」
今までにこのような経験はないでしょうか。これは人間がその活動に完全にのめりこみ、最高のパフォーマンスを発揮している「フロー状態」と言われています。人手不足で生産性の向上が求められている現在の労働市場において、フロー状態を高めていくことは企業パフォーマンスの向上のためにも重要とされています。
また、近年は「ウェルビーイング経営」が注目されており、長時間労働の規制やハラスメント対策等の「働きやすさ」の追求だけでなく従業員個人が意欲的に仕事に取り組める「働きがい」を追求する経営をしていくことが重要と言われています。「ウェルビーイング経営」は従業員の人生に対する満足度をあげるだけでなく、企業の業績向上につながるといわれています。この「働きがい」の追求においては、まさにフロー状態がその中核をなす概念です。
今回のコラムではフロー状態のメカニズムとそのメリット、そしてこれからの日本の労働環境において、どのようにして生かしていくことが求められるのか解説していきます。
フロー理論とは?
「フロー理論」は人が活動に深く没頭する心理状態(フロー状態)を分析した理論のことです。心理学ミハイ・チクセントミハイによって提唱されました。
「フロー状態」とは「時間が経つのを忘れるほど目の前の活動に没頭し、他のことが気にならなくなるような心理状態」のことです。
ゲームやスポーツ等に没頭している時にしばしばこのような感覚となった人も多いのではないでしょうか。人間は外界からの情報を処理しながら内部で時間の流れを推定しますが、フロー状態に入ると、脳の報酬系が刺激されつつ、注意が一点に集中するため、この時間感覚が消失するといわれます。具体的には以下のような主観的感覚が生じます。
・時間感覚のゆがみ:時間の経過が異常に早く(もしくは遅く)感じる
・自我の消失:タスクへの集中で雑念が消え、自我の意識が薄れる
・直接的なフィードバック:自分の行動がうまくいっているか即座に確信できる
・自己目的的体験:結果のためでなく、その活動自体が楽しいと感じている
フロー状態が生じるメカニズム
では、「フロー状態」はどのような条件で生じるのでしょうか。チクセントミハイによると「課題の難易度」と「本人のスキル」のバランスがとても重要であるとされています。
このバランスを示すゾーンとして以下の8つがあげられ、バランスの取れた状態が「フロー」と言われています。特に代表的なゾーンとして以下3つがあげられます。
【代表的なゾーン】
・不安(Anxiety):スキルに対し課題が難しすぎる状態。パニックやストレスを感じる
・退屈 (Boredom):スキルに対し課題が簡単すぎる状態。飽きが生じる
・フロー(Flow):スキルと課題のレベルが高い次元で釣りあう状態
このように、課題に対応する本人のスキルに応じて課題のレベルを調整していくことが重要で、本人のスキルの向上に対して常にフローを維持するためには、課題の難易度を少しずつ上げていくことが求められます。
フロー状態のメリット
フロー状態を経験することは、業務面の実利的な利点にとどまらず、個人のメンタルヘルスや能力開発においても大きなメリットがあります。
①幸福感、充実感を得られる
…フロー状態によって活動後にやり遂げた達成感を得ることができます。フロー状態を繰り返していくことで、報酬ではなく、仕事自体を楽しいと感じるようになるため、仕事への意欲も高まり、メンバー個人のウェルビーングにおいても良い影響を与えることができます。
また、没頭している間は日常的な悩みや不安をつかさどる脳の部位の活動が抑制されるため、精神的な休息効果にもなり、個人のストレス軽減、消失につながります。
②創造性が高まる
…フロー状態によって、意識的なブレーキが外れるため、メンバーの創造性が高まり、斬新なアイディアを引き出したり、イノベーションにつなげたりすることができます。
③新たな価値の創造(生産性の向上)
…フロー状態になることで、メンバーは想定を超える目覚ましい成果をあげることができます。この新たな価値の創造は時間の概念にとらわれるものではありません。
メンバーの業務への集中力が増し、エネルギーを一点にそそぐごとが可能になることで、各メンバーの業務パフォーマンスが大幅に向上するためです。
また、メンバー同士がフローを誘発しあう状態となると、チーム内の連携がスムーズになることで、最終的に組織としても生産性の向上や業績アップにつなげることができます。
フローとエンゲージメントの関係
「フロー状態」と似ている概念として「エンゲージメント」があげられます。(エンゲージメントの詳細については過去コラム参照)
どちらも従業員のウェルビーイングにおいて重要な指標ですが、時間軸や対象に違いがあります。「フロー状態」は「没頭している瞬間の状態」を示すのに対し、「エンゲージメント」は活動に対して活力・熱意をもって持続的に没頭している状態をさしています。
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比較項目 |
フロー |
ワーク・エンゲージメント |
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定義 |
活動に完全にのめり込んでいる一時的な心理状態 |
仕事に誇りや活力を感じている持続的な心理状態 |
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時間軸 |
短期的(数分〜数時間) |
中長期的(週間〜月間) |
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対象 |
目の前の「タスク(活動)」 |
自分の「仕事(職業・役割)」 |
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主な要素 |
没頭、時間の歪み、自己喪失。 |
活力、熱意、没頭 |
日々の業務の中でフロー状態を何度も経験することで、中長期的なエンゲージメントの向上につながりますし、エンゲージメントが高い状態にある人は主体的に業務に取り組む傾向にあるため、必然的にフロー状態に入りやすい状態となります。
このようにフロー状態、エンゲージメントも従業員、組織の成長にとってどちらも重要であり、互いに影響しあっているといえます。
フロー状態を発揮する組織づくりのポイント
職場で従業員がフロー状態に入り、各個人が最高のパフォーマンスとウェルビーイングを両立させるためには、仕事の設計と環境の整備が重要となります。
①明確な目標設定
…組織、各メンバーで何を達成すべきかがあいまいだと、迷いが生じて集中が続きません。フロー状態に入るためには組織の目標とそのメンバーに対する目標を明確にすること、また数字で表せるような目標を設定することが重要です。また、大きな目標ではなく、具体的かつ細分化した短時間のゴールを設定し、段階的に達成していくように設定していくことで、メンバーも無理なく挑戦できるようになります。
また、人事評価においては、「役割の拡大と深化」という二軸で細分化された目標設定と評価を行う役割貢献制度(役割貢献制度については過去コラム参照)の考え方が有効です。この考え方により、メンバーは今どこにいてこれから何を求められるかを理解しやすくなり、自分の処遇への納得感も高まります。
②即座のフィードバック
…自分の行動が適切であると感じられるという手ごたえが即時にわかる状態は没入感を加速させます。例えば、文章の執筆であれば文字数がすぐに確認できる仕組みなどの、作業プロセス自体から得られるフィードバックを設定することが重要です。
また、人事評価における上司から部下へのフィードバックとして1 on 1の実施があげられますが、評価ではなくアセスメントの場として、前述した目標設定をもとにしたフィードバックを与え、本人の気づきや行動変容を行っていくことが大切です。(詳細は過去コラム参照)
③メンバーに応じた適切な難易度のタスク
…前述したように、フロー状態に入るためにはスキルと課題の難易度の適度なバランスが重要となります。組織内の各メンバーのスキルに対しての業務レベルの現状分析を行い、仕事が退屈になっているなら「新しい手法を試す」等の難易度を上げる、難しすぎるなら「タスクの細分化」「同僚にサポートを仰ぐ」等の行動によって、バランスを調整していくとよいでしょう。
また、各メンバーが自分で仕事をコントロールしている感覚が持てることも重要です。個人にあった裁量のある仕事を用意し、メンバーの決定権や責任の意識を高めるようにしていきましょう。
④集中できる環境整備
…フロー状態に入るには、平均して15~20分の深い集中状態が必要といわれています。一度業務が中断されると再びフローに戻るには多くのエネルギーを消費します。
チャットツールの通知オフや下位意義のない集中タイムをスケジュールに入れる、ノイズキャンセリングヘッドフォンの活用により、集中状態を続けられる環境づくりが重要です。また、作業環境もフロー状態に大きく影響するため、作業空間が適切な温度設定、明るさ、整理された空間となるように環境整備をしていくとよいでしょう。
⑤心理的安全性の確保
…「失敗したらどうしよう」「誰かに否定されるかも」といった心理的不安はフロー状態に入ることを妨げてしまいます。従業員が安心して業務に挑戦できる心理状態であることが重要です。そのためには日ごろから心理的安全性が高く、従業員の挑戦を支える文化が職場内に形成されるようにしていく必要があります。(心理的安全性の確保については過去コラム参照)これはすなわち、過去のコラム(①・②)で解説した、「ケアの倫理」に現れる他者との関係性と責任を重視した組織風土づくりにも通ずるとても重要な視点です。
このように、人手不足が深刻化し、労働者が自らの意志で職場を選ぶ現代においては、フロー状態を感じられるような「働きがい」のある魅力的な職場づくりが重要となります。
そして、このような仕組みづくりにおいては、事業特性や組織風土に合った形で制度に実装できる、労務に精通した専門家のサポートが不可欠です。
プラットワークスは、働くすべての人が本来はクリエイターであり、フロー状態が生じている労働環境下では、創造性を発揮することができ、個人の能力を自然に開花することができると考えています。
そして、「やりがい」や「自己成長」といった働くことの精神的価値が人生の豊かさに大きく影響すると考えており、その働くことによる楽しさをすべての人が感じられるような組織づくりを仕事としております。このような考えのもと、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っておりますので、ぜひご活用ください。
また、弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。従業員にとって、相談することで組織の心理的安全性を高める外部の相談窓口として活用いただくことができます。
Plattalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。



