マイクロアグレッションとは~アンコンシャス・バイアスとの違いとDE&I疲れの時代に求められる対応~

過去コラムでDE&I疲れアンコンシャス・バイアスについて解説してきましたが、現代において注目すべき概念としてマイクロアグレッションがあげられます。「マイクロアグレッション」は相手を傷つける意図の有無によらず、特定の人やグループへの偏見や差別的な言動を指します。「外国人なのに日本語が上手ですね」など日常の生活や会話の中で自然に用いられることが多いため、誰もが一度は経験したことがある言動ではないでしょうか。

しかし、発信者がたいしたことない・善意として行った言動であっても、受け手に対してはもやもやや不快感を与える可能性があります。また、ハラスメントと異なり、客観的に問題のある言動と受け取られることもないために、受け手も不快感があっても我慢してしまう傾向にあります。このような我慢が積み重なるとメンタル不調や離職につながることも考えられるため、企業としても「アンコンシャス・バイアス」と同様に認識し対応していく必要性がでています。
今回のコラムでは、「マイクロアグレッション」の定義と「アンコンシャス・バイアス」との違い、DE&I疲れが起きている今の時代において、企業がとるべき対策を解説していきます。

マイクロアグレッションの定義

マイクロアグレッション(Microaggression)とは、特定の少数派(マイノリティ)に対して、自覚の有無に関わらず、日常の会話や態度の中で向けられる微細な偏見や差別的な表現・行動のことです。

マイクロアグレッションは、アメリカの精神医学者であるチェスター・ピアスにより、提唱され、心理学者デラルド・ウィン・スー(Derald Wing Sue)教授らによって体系化され、近年ビジネスや教育の現場で広く知られるようになりました。
「マイクロ(微細な)」という言葉がついていますが、これは「大したことのない問題」という意味ではなく、「本人が気づかないほど些細で日常的な行動の中に潜んでいる」という意味です。また、相手を傷つける意図がなく、むしろ善意で行った言動によっても問題を生じさせることがあります。 

3種類のマイクロアグレッション

マイクロアグレッションはその性質によって以下の3つに分けられます。

①マイクロアサルト(意識的攻撃)
…意図的な差別。わざと差別用語を使ったり、特定のグループを排除したりする

②マイクロインサルト(無意識の侮辱)
…悪気はないが相手を傷つける無礼な発言
例)「外国人なのに日本語上手ですね」

③マイクロインバリデーション(無意識の無効化)
…相手の経験やアイデンティティ、傷をたいしたことないと否定
例)「そのくらいの残業はたいしたことない。私の時代は当たり前だった」

 特に発信者が悪意なく無意識に行ってしまうマイクロアグレッションは、言動自体には大きな問題ととられないため、表面化しにくく、意図せず繰り返し相手を傷つけてしまうことがあります。意図的で悪意のあるハラスメントと異なり、マイクロアグレッションは社会的・法的に問題視がされにくい現象です。そのため、受け手側も発信者との関係性のために我慢してしまったり、周囲に相談できないまま不満やモヤモヤが積み重なったりしてしまい、メンタル不調や離職につながってしまうリスクをはらんでいます。

アンコンシャス・バイアスとの違い

「マイクロアグレッション」と類似した概念にアンコンシャス・バイアスがあげられます(詳細は過去コラム参照)。どちらも「無意識」に発生していることや「悪意がない」ことが多い現象のため、混同されやすいですが、意味合いが異なります。

大きな違いとしてアンコンシャス・バイアス」は「心の中のメカニズム」で、「マイクロアグレッション」は「言葉や行動として表に出た結果」であることです。
「アンコンシャス・バイアス」は過去の経験や生まれ育った環境、メディア等の影響により、自発的に行う「偏見」を示し、人だけでなく、モノや状況に対しても働きます。
それに対し、「マイクロアグレッション」はその「アンコンシャス・バイアス」がベースとなって実際の会話や態度として表に出てしまい、相手を傷つけている現象のことをさします。そのため、マイクロアグレッションは必ずそのもととなる言動の「発信者」と受け手の「受信者」の人間関係の中で発生します。必ずしも悪意は伴わず善意で行った言動であっても受け手によっては侮辱や拒絶と感じることがあります。

項目

アンコンシャス・バイアス
(無意識の偏見)

マイクロアグレッション
(微細な攻撃)

位置づけ

原因・背景
(心の中のメカニズム)

結果・現象
(実際の言動や態度)

対象

モノ、状況、人など全般に向く

特定のマイノリティ(少数派)に向く

具体例

「育休をとる男は出世欲がない」
思い込み・偏見

「男のくせに育休取るんだ」
発言

マイクロアグレッションに対して企業ができること

多様性の尊重が叫ばれる時代においても、マイクロアグレッションは決して完全になくすことはできない中、企業が行うことのできる対策はどのようなことがあるでしょうか。主に以下の3点があげられます。

1)研修の実施
…前述した通り、マイクロアグレッションの原因は「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」です。研修実施の際は悪意のない一言がなぜ相手を傷つけることがあるのか、具体例も提示しながら、アンコンシャスバイアスとセットで研修を実施するとよいでしょう。また、マイクロアグレッションは「悪意がなくても相手に影響を与えてしまう」という共通認識を研修によって全社的に浸透させることも大切です。

2)匿名の相談窓口の設置
…研修を実施して認識があったとしても、マイクロアグレッションを受けた側は相手との関係性からそのもやもやや不快感を言いづらいことがあります。そのような場合に、匿名で相談ができる外部の相談窓口を設置し、活用していくとよいでしょう。

3)心理的安全性の高い職場づくり(トップの発信、人事評価制度の見直し、環境づくり、業務配分)
…マイクロアグレッションの多くは悪意を持って行われるものではなく、誰にでも起こりうるコミュニケーションのすれ違いから生じます。だからこそ、「マイクロアグレッション」になりうる言動をしていないか相手の立場に立つ意識をもつこと、相手を傷つけてしまい指摘を受けた場合にも、謝罪し関係を修復していくことが大切です。逆に「マイクロアグレッション」を受けて傷ついた場合に、率直に相手に伝えることも大切です。このようにマイクロアグレッションが生じたとしても、受け手が感じた事を我慢せず伝えられ、発信側も受け止め、言動を修正できる「心理的安全性の高い」職場の風土づくりが大切とプラットワークスは考えております。
そのためにも、日頃から立場によらずコミュニケーションがスムーズに行える風土づくりが重要です。また、発信者も悪意をもって言ったわけではないこと、受大したことないと思っていることでも受け手側はひどく傷つく場合があるといった、「人は失敗することもあり、常に正しさで判断するのではなく、他者の個別状況に配慮する必要がある」という「ケアの倫理」の視点も重要です(過去コラム参照)。
心理的安全性の高い職場風土づくりには以下の具体的な対策があげられます。

①「不完全さの容認」をトップが発信する
まずはトップが率先してこのような「不完全さの容認」の姿勢を発信することが重要です。経営陣や管理職が「自分にも偏見があり、間違えたら指摘してほしい」と部下に伝えることが必要です。それにより、現場のメンバーも間違えても人格否定にはならないと安心でき、過度な委縮を防ぐことができます。

②人事評価制度の見直し
人事評価制度の見直しも一つの方法です。成果のみに着目した評価制度の設計やミスを過度にマイナス評価に反映する制度設計であると、自発的に気軽なコミュニケーションがとりづらくなってしまいます。例えば多様性を尊重する姿勢や他者の意見を包摂する行動をとっているかを行動評価軸に組み込むなど、制度設計へ反映させることも大切です。

③失敗をうけとめてもらえる業務外の環境づくり
従業員が「もし失敗しても大丈夫である」という意識を仕事以外の場で得られることも大切です。部活動や業務外プロジェクトなどの機会を提供することで、評価に直結しないからこそ、のびのびとコミュニケーションがとりやすくなり、心理的安全性の高い風土づくりにつなげられます。

④余白を持たせる業務配分
従業員の業務配分の決定において、無駄や余白を削りすぎないで遊びを作る視点も重要です。常にスケジュールやタスクが100%以上となっている状態では人の心からゆとりが消えてしまい、防衛的・攻撃的になりやすいため、マイクロアグレッションを誘発してしまう可能性があります。また、このような状況下だと一つもミスが許されない緊迫した空間になりやすく、チーム内での心理的安全性が確保されません。
また、「仕事に余裕(=遊び)を持たせる」ことで心理的安全性の向上だけでなく、無駄に見える余白の時間から新たなアイディアが生まれ、イノベーションにつながることも考えられます。

今回のコラムでは「マイクロアグレッション」について、その定義と企業に向けてできる対策について解説していきました。
特に現代の労働市場では多様な背景を持つ人が一つの職場で働く時代であり、AIの発展により、人間が行う仕事においても「効率」よりも「人間らしさ」と向き合う複雑な仕事が多くなると予想しています。
このような複雑化した現代の労働市場においては、人事制度設計や相談窓口の設置等において、精通した専門家にアドバイスを求めるとよいでしょう。

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