もくじ
2026年6月、公正取引委員会による「物流特殊指定(特定荷主による優越的地位の乱用等に関する特例告示)」が改正されました。施行は2027年4月になります。これにより、荷主と物流業者間の公正な取引のための規制がいくつか追加されました。
例えば、これまでなかった着荷主への規制が加わり、工場や倉庫で発生する「長時間の荷待ち時間」や「無償での荷役作業」が明確に禁止されます。
2024年4月、厚生労働省が定めた「改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)」の適用により、自動車運転者の時間外労働に対して年960時間の上限規制が適用されました。いわゆる「2024年問題」への対応のため、多くの企業が物流体制や労働時間管理の見直しに取り組んでおります。
しかし一方で、運送事業者(トラック会社)と荷主だけでは、根本的な解決が難しい問題もあります。今回、こうした構造的課題に対し、独占禁止法の観点から是正を図るべく制度改正が行われました。
本コラムでは、「物流特殊指定」改正のポイントを整理し、2024年問題との地続きの物流業界の構造課題、そして事業者が取り組むべき労務・取引環境を解説します。
1.物流特殊指定の概要と必要性
独占禁止法第2条第9項6号との関係
物流特殊指定とは、独占禁止法に基づき公正取引委員会が定める告示です。
独占禁止法第2条第9項第6号の規定から、公正取引委員会が物流に関する「不公正な取引方法」として定めたのが本告示です。この告示は物流業者と荷主との間の、公正な競争を阻害するような取引を防ぐ目的があります。
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
- イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
- ロ 不当な対価をもつて取引すること。
- ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
- ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
- ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
- ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。
なぜ物流業界において告示が必要とされるのか
物流の分野では、現行の独占禁止法だけではカバーしきれない領域がありました。物流取引においては、荷主と物流事業者(運送会社等)で継続的な取引を行うことが多く、物流業者が取引先に依存することで、「強い立場」と「弱い立場」の非対称な力関係が生じやすい傾向にあり、取引上の不当な要請が発生しやすい構造です。そういった状況に対して、物流に特化した規制が必要となり制定されました。
2.改正の背景:ドライバーの労働環境と「構造的課題」
ドライバーの労働環境
物流特殊指定改正で規制を設ける目的は、いわゆる物流の「2024年問題」とも関連しております。2024年に厚生労働省によるトラックなどの自動車運転者の労働環境改善のための規制、「改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)」が施行されました。この規制によってドライバーの労働時間が見直されました。一方で、今後の運転手の人手不足が懸念されています。これがいわゆる2024年問題です。改善基準告示は、トラック、バス、ハイヤー・タクシーなどの拘束時間、休憩時間、運転時間などの基準が上限として定められています。これにより、トラックドライバーの拘束時間上限は原則として年3,300時間(月284時間)、1日の拘束時間は原則13時間以内(最大15時間)に制限されました。時間外労働については、一般の労働基準法適用職種のような月45時間・年360時間の原則制限とは異なり、年960時間の上限が設定されました。
「2024年問題」で残った課題
自動車運転者は、改善基準告示が施行される2024年4月以前には、時間外労働の上限規制(年960時間)の適用が猶予されていました。近年、2024年問題を背景に物流の労働環境は大きな変化が生じています。こうした状況の中、物流事業者単独の努力では根本的な解決に至らない課題がありました。今回の物流特殊指定の改正で新しく規制される、着荷先での運送業者の不当な長時間待機や荷下ろし作業などは、運送業者と着荷主の間には直接の契約関係がないため、運送業者は拒絶・交渉しづらい状況にありました。こういった側面は、生産性の悪化などの観点で運送業者の負担になっておりました。今回こうした構造的課題に対して、公正取引委員会が独占禁止法から規制することで改善を図っています。
3.規制対象の要件
3つの取引パターン(荷主が物流事業者に対して直接委託する場合、荷主の子会社が物流事業者に対して再委託する場合、着荷主と発荷主との取引)
物流特殊指定の適用対象となる要件を確認します。適用条件は3パターンに大別されます。まず従来の物流特殊指定で規制を受ける2パターンの取引があります。①「荷主が物流事業者に対して直接委託する場合」と②「荷主の子会社が物流事業者に対して再委託する場合」です。①、②では、定められた要件を満たした事業者はそれぞれ「特定荷主」、「特定物流業者」として本告示の対象となります。さらに今回の改正で、着荷主と発荷主間の取引も規制が追加されました。それが3パターン目の、③「着荷主と発荷主との取引」です。このため購入者と売主の関係でも要件を満たせば、それぞれ「特定着荷主」、「特定発荷主」として適用対象になります。
①荷主が物流事業者に対して直接委託する場合
②荷主の子会社が物流事業者に対して再委託する場合

③【新設】着荷主と発荷主との取引

公正取引委員会、2026年、『物流特殊指定 ~知っておきたい「物流分野の取引ルール」~』https://www.jftc.go.jp/file/guidebook_buttoku.pdf
3つの基準(資本金、従業員規模、取引上の地位)
具体的な基準については、「資本金」、「従業員規模」「取引上の地位」の3つがあります。取引を行う事業者が、後述の資本金もしくは従業員規模のいずれかを満たしていれば適用されます。この基準に加えて、資本金もしくは従業員規模を満たしていなくても、事業者の取引上の地位から判断される場合もあります。「取引上の地位が優越しているか」どうかの判断においては、事業者間の取引依存度、市場における地位、および取引先変更の難易度などを総合的に考慮して判定されます。
| 取引パターン | 規制される側 | 保護される側 | 資本金・規模要件の目安 |
|---|---|---|---|
| ① 荷主が物流事業者に対して直接委託する場合 | 特定荷主 | 特定物流事業者 |
|
| ② 荷主の子会社が物流事業者に対して再委託する場合 | 特定荷主 | 特定物流事業者 |
※基準はA.荷主➔C.受託物流事業者の関係を確認。
規制はB.元請物流事業者➔C.受託物流事業者で適用。 (B.元請物流事業者を特定荷主、C.受託物流事業者を特定物流事業者とみなして適用される。) |
| ③ 【新設】着荷主と発荷主との取引 | 特定着荷主 | 特定発荷主 |
|
※上記要件を満たさない場合でも、市場における地位や取引依存度などを総合的に考慮し、「取引上の地位が優越している」と判断される場合は対象となります。
【参考】
②「荷主の子会社が物流事業者に対して再委託する場合」で、B.元請物流事業者とC.受託物流事業者の関係が下記いずれかに該当する際は、物流特殊指定ではなく、「中小受託取引適正化法」が優先して適用されます。

公正取引委員会、2026年、『物流特殊指定 ~知っておきたい「物流分野の取引ルール」~』https://www.jftc.go.jp/file/guidebook_buttoku.pdf
4.条文からみる禁止行為のポイント
物流特殊指定で定める具体的な禁止行為を条文ごとに確認します。
荷主・元請物流事業者による禁止行為
-
・代金の支払遅延 物流特殊指定第1項1号
特定荷主が、特定物流事業者に責任がないにもかかわらず、所定の期日までに代金を支払わないこと。
※改正で手形等による支払についても制限の対象となります。 -
・代金の減額 物流特殊指定第1項2号
特定荷主が、特定物流事業者に責任がないにもかかわらず、発注後に不当に代金をカットすること。事業者間で値下げの合意があった場合に、発注済みの分まで遡及して減額するなどが該当します。
-
・買いたたき 物流特殊指定第1項3号
特定荷主が、通常支払われる対価と比較して、不当に低い金額を定めること。特定物流事業者と十分な協議を経ずに、荷主の一方的な都合で代金を設定するなどが挙げられます。
-
・物の購入強制・役務の利用強制 物流特殊指定第1項4号
特定荷主が、正当な理由がないにもかかわらず、特定物流事業者へ自己の指定する物又は役務を購入・利用を強制させること。自社指定のトラックリースの利用を不当に強制するなどです。
-
・不当な経済上の利益の提供要請 物流特殊指定第1項5号
特定荷主が、自社のために特定物流事業者へ、不当に金銭やサービスを提供させること。契約にない倉庫内の仕分け・梱包作業等を無償で行わせるなどが該当します。
-
・不当な運送・保管内容の変更及びやり直し 物流特殊指定第1項6号
特定荷主が、運送・保管のやり直しにより、特定物流事業者へ不利益を被らせること。無償での運送先の変更や再配達などが挙げられます。
-
・協議に応じない一方的な代金決定 物流特殊指定第1項7号
特定荷主が、特定物流事業者の価格協議に応じないこと。燃料高騰や人件費上昇に伴う物流業者からの価格交渉要求に対し、協議そのものを拒否することは違反になります。
※改正で追加された内容です。 -
・要求拒否に対する報復措置 物流特殊指定第1項8号
特定荷主が、1号~7号の要求を拒否した特定物流事業者に対して、それを理由に取引の量を減らすことや、取引を停止するなどの不利益な対応。
-
・情報提供に対する報復措置 物流特殊指定第3項
特定荷主が、特定物流事業者による公正取引委員会への違反情報の提供を理由に、取引停止などの不利益措置を行うこと。
【新設】着荷主による違反行為
-
・不当な経済上の利益の提供要請 物流特殊指定第2項1号
特定着荷主が、特定発荷主が委託する事業者に、契約にないサービスを提供させること。契約にない製品の荷下ろしや、製品の仕分け作業などをさせた際に、その費用を特定発荷主に負担させるなどが挙げられます。
※改正で追加された内容です。 -
・不当な運送内容の変更及びやり直し 物流特殊指定第2項2号
特定着荷主が、特定発荷主が委託する事業者に、運送内容の変更や運送後のやり直しをさせること。自社都合により、運送事業者を自社施設内で長時間の荷待ち状態にさせながら、そのコストを特定発荷主に負担させることなどが挙げられます。
※改正で追加された内容です。 -
・情報提供に対する報復措置 物流特殊指定第3項
特定着荷主が、特定発荷主による公正取引委員会への違反情報の提供を理由に、取引停止などの不利益措置を行うこと。
5.今後の取り組み:サプライチェーン全体の生産性向上へ
物流特殊指定の改正は、一見、労働環境の改善のためだけの規制強化に見えます。しかし、構造的な見直しによって生産性の向上へ繋げる可能性があります。例えば、着荷主と発荷主の契約の中で、製品の受け入れ体制が整えられれば、運送業者の待ち時間も減らすことができます。結果として、産業全体の中にあるボトルネックを解消する好機となります。そのように考えると、適切な取引環境の整備は、単なるコスト増ではありません。荷主・物流事業者・消費者の「三方よし」を実現し、持続可能なサプライチェーンを構築し、自社のビジネスを止めないための「必要な戦略投資」です。
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