もくじ
近年、ギグワーカーの増加に伴い、現行の労働基準法で想定されていない働き方が増えてきたため、労働基準法の適用範囲や規制のありかたについて、見直しの必要性が高まっています。実態としては、業務委託契約でありながら企業から強い指揮命令を受けていたり、価格決定権が制限されていたりするケースが問題点として浮かび上がっています。さらに、現在はAIを用いたGPSやアルゴリズムによる監視など、実質的に指揮監督を行うケースも見受けられ、労働者性の判断基準はより複雑化しています。
こうした背景から、2025年5月より厚生労働省の「労働基準法における『労働者』に関する研究会」において、労働基準法で定義されている「労働者の判断基準」(労働者性)のあり方の見直しを図る議論が活発に行われています。
また、2024年に施行された「フリーランス保護新法」や2026年1月に施行された「中小受託取引適正化法(取適法)」の影響により、ギグワーカーやフリーランスといった個人事業主に対する保護強化の流れが強まっており、個人事業主にも労働者と近い扱いを求める傾向にあります。
今回のコラムではギグワーカーの「指揮監督下」に関する判断基準の論点を整理し、その概要を解説します。また、ギグワーカーを取り巻く労働環境の視点から、プラットワークスとしての労働者性の判断基準に対する考えをお伝えしていきます。
日本における労働者性判断基準の現状とこれまでの動き
過去コラムで解説した通り、労働者保護の法規の始まりは、世界各国の工場や鉱山で働く労働者の保護問題に起因します。日本もそれにならい特定の労働者の保護から始まり、1947年あらゆる事業の労働者を保護する「労働基準法」の制定へ至りました。
「労働者」の判定基準は、労働基準法と労働組合法においてそれぞれその法律の目的にのっとり異なっています。
<労働基準法における労働者>
職場における労働条件の最低基準を定めることを目的としているため、労働条件による保護を受けるための概念とされています。使用者との間において使用従属関係(使用者の指揮監督下にある)にあることが「労働者」の定義となり、会社に強い法的義務を負わせるため、労働者の適用範囲は狭く限定的になっています。
<労働組合法における労働者>
労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進し、労働者の立場を保護することを目的としています。「労働者」の定義が広く、「使用される」という要件がなく、失業者も含みます。そのため、「ギグワーカー」が労働基準法上の労働者に該当しない場合でも、「労働組合法」上の労働者と認められる可能性があります。実際に「ウーバーイーツ配達パートナー事件(2022年)」など、労働組合を結成し交渉や訴訟を進め、労働組合法上の労働者性があると判断された判例が存在します。
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労働基準法 |
労働組合法 |
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定義 |
職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者(第9条) |
職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者(第3条) |
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判断基準 |
労基法第9条の事業に使用される者であるか否か、その対償として賃金が支払われるか否かによって判断。
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労働組合法上の労働者性の判断基準1をもとに、2と合わせ総合判断。ただし、3が認められる場合、労働者性が否定され得る。 |
今回議論が盛んにおこなわれている労働基準法上の労働者性の有無の基準は「使用される=①指揮監督下の労働」という業務提供の形態および、「②報酬の労務対償性(使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価であるか)」から判断されます。
しかし近年、ギグワーカーに対してもプラットフォーム側からAIによる指示や監視、条件に応じた報酬設定が行われており、実質的には指揮監督下・労務対償性がみられることから、「労働基準法上の労働者性」に該当するのではないかという声があがっています。これまで「労働基準法」で届かなかった労働者性の基準に対し、「労働組合法」との隙間を埋めるため、フリーランス保護新法や労災保険の特別加入制度の拡大など多様な保護の仕組みが作られてきました。そして現在、「労働基準法上の労働者性」そのものの定義を変える動きが本格化しています。
労働基準法における労働者性の判断基準
1.指揮監督下の労働である(使用従属性がある)
①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
使用者の具体的な仕事の依頼や指示等に対して、引き受けたり、断ったりする自由があれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する要素となります。反対に、具体的な仕事の依頼、業務従事の指示に対して、拒否する自由を有しない場合、指揮監督関係を認める要素となります。
②業務遂行にあたっての指揮監督の有無
業務の内容及び遂行方法について使用者の具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素です。(注文者が行う程度の指示を除く)また、予定外の業務に従事させることがある場合も、使用者の一般的な指揮監督を受けているとの判断を補強します。
③勤務場所および勤務時間に関する拘束の有無
勤務場所及び勤務時間が指定・管理されていることは一般的に指揮監督関係の要素となります。ただし、業務の性質や安全確保の観点によって指定される場合は、業務の性質か、指揮監督命令によるものかを見極める必要があります。
④労働提供の代替性の有無
本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか、また、本人が自らの判断によって、補助者を使うことが認められている(労務提供に代替性が認められている)場合、指揮監督関係を否定する要素の一つとなります。
現在議論の対象となっている「AIによる指示・監視・評価システム」は、広い意味での指揮監督下にあることを意味すると指摘されています。これまでギグワーカーは「働く時間や受諾の選択が自由であること」が特色でしたが、近年はAIによる仕事の指示や、評価制度に伴うペナルティ設定により、実質的に「逆らえば仕事と収入を失う可能性のある強制力を持った指揮命令」として機能しているとされるからです。
2.賃金を支払われる者である(報酬の労務対償性がある)
労働基準法第11条において、賃金の定義として「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」とされている通り、賃金であるためには労働者である必要があるため、使用従属関係のもとで賃金を支払われていれば、その者は「労働者」と定義されます。
※厚生労働省「令和7年3月11日第195回労働条件分科会資料2」より
その他、補強する要素として、「事業者性の有無(機器器具の負担関係、報酬の額)」や「専属性の程度等」が考慮され、総合的に判断されます。
なお、近年はAIによる指揮監視だけでなく、「時間や距離に応じた報酬計算」や、「件数に応じたインセンティブ設定」などが、働いた時間や労力そのものへの対価(労務対償性)の色合いを強めているため、ギグワーカーも該当する可能性があります。
海外におけるギグワーカーの労働者性に関する動向
世界的なギグワーカーに対する労働者性に関する議論は「実質的な雇用関係へ組み込む(労働者性を認める)」流れと「柔軟性を担保しつつ最低限の保護を与える枠組み作り(第3のカテゴリーを設ける)」の二つの流れが生じています。
各国判断基準は異なりますが、基本的に指揮監督や業務受託の義務付けは労働者性を認める方向で判断されます。
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アメリカ |
イギリス |
日本 |
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労働者性 |
各州の政策によるが「労働者」は独自のテスト等によりプラットフォーム側の管理実態を理由に判断。
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使用者による管理や労務代替性で判断。 |
主に使用従属性で判断し、指揮監督の有無、報酬の労務対象性を考慮。
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立法同行 |
カルフォルニア州 連邦 |
立法措置無し(判断基準明確化の審議案あり)
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フリーランス保護新法、中小受託取引適正化法などを整備。
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※内閣府「フリーランス・ギグワーカーの労働者性・保護に関する各国の動向」より抜粋
特に欧州(EU)では、2024年に欧州議会で採択された「プラットフォーム労働指令」により、プラットフォームワーカーの労働者性を一定条件のもとで原則として認め、労働法の規制を適用する動きが進んでいます。
イギリスにおいては、「従業員(労働者)」と「個人事業主」の間に位置する「ワーカー」という第3の区分を設け、業務選択や働く時間の柔軟性を保ちつつも「最低賃金の保証」「年金制度への加入」等の基本的な保障が認められています。
また、アメリカでは、州ごとの方針に伴い対応が分かれるものの、カルフォルニア州等では管理権テストを用いて労働者を判断する基準を明確化しました。さらにニューヨーク市やシアトル市では、労働者か否かの分類にとらわれず、最低限の収入水準を確保させる都市条例を施行しています。
日本においても、Amazonやウーバーイーツの配達員など、実質的な使用従属関係がみられる働き方が増えています。今後は日本でも、こうした個人事業主に対して、労働者性を認める明確なガイドラインが制定されていく見通しです。
一方で、一律に労働者性の明確な基準が定められることで、自律した働き方を望む個人事業主から労働法規による過剰な管理・保護体制への反発が起こる可能性も懸念されます。
ギグワーカーの労働者性の判断において重要な観点
現在、一定の基準をみたすギグワーカーに対して労働者性を認めるか否かの方向性で議論が進められています。しかし、ギグワーカーの働き方の実態は非常に多様化しており、一律で「労働者」として保護するよりも、個人の裁量に応じて一定の自由度を残したグラデーションのある保護制度の設計が必要であるとプラットワークスは考えています。
例えば、専業でアプリ等のプラットフォームからの報酬のみで生計を立てるギグワーカーは「労働者性」が高いと言えますが、一方で本業の合間に短時間働く人や、自己実現の一環で働く副業層は「労働者性」が低く、ギグワーカーの働き方にも明確なグラデーションが存在するからです。
したがって、ギグワーカー自身の裁量権(事業者性)の度合いに応じて労働者としての保護の強度に濃淡をつけることが必要と考えています。
フリーランス保護新法などの整備により個人事業主の働く環境整備が進む一方で、一律の強い保護が適用されると、従来の自由度の高い働き方が阻害される恐れがあります。
そして、個人事業主と取引を行う企業側も新法の遵守やハラスメント対策を進めるだけでなく、今後の「労働者性」の判断基準や法改定の動向を注視し、制度改定に柔軟かつ適切に対応していくことが求められます。
契約形態が雇用であれ業務委託であれ、組織やプラットフォームの狭間で働く個人の尊厳を守るという本質に変わりはありません。
とりわけ、AIやアルゴリズムによって評価・管理されるギグワーカーやフリーランスは、過度な適応圧力を受けながらも労働組合や社内相談窓口を持たず、「不調や不安を一人で抱え込み孤立しやすい」という深刻な心理的リスクに晒されています。
だからこそ、時代の実態に即した契約・労務管理の制度設計を進めると同時に、雇用形態の枠を超えて個人が安心して相談できる「予防的なメンタルヘルスケアのインフラ」を整えることが、これからの多様な労働市場における配慮義務といえます。
プラットワークスでは、社会保険労務士による適法かつ柔軟な契約・労務環境の制度設計と、オンライン心理カウンセリング「PlaTTalks」を通じた予防的なメンタルヘルスケアを融合させ、あらゆる働き手と企業が持続的かつ対等に活躍できる「自律型組織」の構築を強力に支援してまいります。



