もくじ
日本の労働力人口は2024年に過去最高の6,957万人を記録し、特に女性の労働参加は大きく進み、労働力率は55.6%と過去最高を記録しました。また、女性活躍推進法の成立から10年たった2025年には、「働く女性の健康上の課題に配慮すべき」と法改正案に初めて明記されました。更年期症状や生理に伴う体調不良により、業務効率が低下したり通勤がつらかったりと健康面で悩みを抱える女性は多く、退職せざるをえない人もいます。政府は女性の健康問題による経済損失を年間約3兆4千億円と試算し、企業経営でも重要なテーマとなっています。
このように働く女性の増加に伴い、生理休暇制度など女性特有の健康問題に関する支援制度を設立する企業も増え、一般的となりつつあります。その代表として「生理休暇」があげられ、労働基準法第68条に定められた「法定休暇」に該当します。一方、制度はあるものの利用しづらいといった声もあるのも事実です。実際に過去のコラムで言及した通り、生理に伴う体調不良により生活に支障をきたした女性が8割にのぼる一方、生理休暇を取得した従業員は全体のわずか0.9%、女性労働者がいる事業所のうち、生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%であり、ほとんど利用されていないのが現状です。

※参考 内閣府「男女の健康意識に関する調査」より生理に伴う体調不良の影響について
※参考 厚生労働省「働く女性と生理休暇」
今回のコラムでは、「生理休暇」について、概要および労働基準法で制定されるまでの歴史、そして企業として求められる対応について併せて解説していきます。
生理休暇と関係法令
「生理休暇」とは、生理日において、下腹部痛や腰痛、頭痛などにより働くことが困難な状態の女性が、雇用形態や業務内容を問わずに請求することができる休暇です。
労働基準法第68条において法的に定められた休暇で、使用者が女性従業員の請求に従わなかった場合、30万円以下の罰金が科せられます。
|
第68条 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合には、その者を生理日に就業させてはならない。 |
対象者と条件
労働基準法に基づき、雇用形態によらず、すべての女性労働者が対象となります。そして、企業は対象者が生理休暇を請求した場合、その権利を付与する義務があります。生理に伴う体調不良によって業務が困難になる場合に取得が可能となり、本人からの申請(口頭、書面など通知方法は問わない)のみで取得が可能となります。
また、生理に伴う体調不良と業務への影響は個人差があるため、取得可能日数に上限の一般的基準は定めておらず、就業規則等に生理休暇日数を限定することはできません。ただし、生理休暇の有給日数を限定する目的で、有給日数の上限を記載することは差し支えないとしています。
制度成立の背景と歴史
では、生理休暇制度はどのような経緯で成立したのでしょうか。
生理休暇の概念は1917年の全国小学校女教員大会にて「生理的障害」として提起されました。当時の女性労働者の労働環境は厳しく、月経時の体調不良が労働に与える影響が問題視されるようになりました。また、『女工哀史』(1925)に記載されているような劣悪な労働環境下で働く女性労働者が「月経時の労働」を問題視して「母性保護」と関連して「月経時における休暇」を求めたことに関連しています。
なお、月経は当初より睡眠と同様に、女性のみにおこる人間の生理的バイオリズムという視点で、「本人の努力」だけでは制御できない生理現象として認識されていました。
昭和初期になると、月経時の女性労働者調査が実施され、多くの医学者の調査とともに職業婦人に月経不順が多いことを説明し、母性保護の必要性を訴えました。
そして、1931年に千葉食糧研究所の女子従業員が「生理休暇」(有給5日)を取得したことが日本初の生理休暇の取得事例となりました。
その後、1947年に「労働基準法」が成立し、第68条にて「生理休暇」に関する規定が法的に定められました。なお、成立当初はGHQより男女平等原則の立場から「生理休暇」は「女性の特別扱い」であると反対されていました。しかし、当時の劣悪な栄養状態や衛生環境下における生理中の労働の身体的負担は、母性保護の観点から有害だと主張した女性活動家たちの運動により「生理休暇」が規定されました。このように「生理休暇」は女性活動家の労働運動から生まれた母性保護の権利なのです。
なお、1985年に男女雇用機会均等法が制定された際に、「女性の保護」から「男女の平等」へ舵を切る際に、「生理休暇」の存続の可否は激しく議論されました。この論点としては「男女平等を進めるために、生理休暇等の女性の保護規定を撤廃すべきか維持すべきか」でした。この議論の結果、深夜業禁止や残業制限といった「女性保護」の多くは段階的に廃止されましたが、「生理休暇」は「母性保護(将来の出産や現在の健康を守るために不可欠)」の観点から維持すべきとして、労働基準法に残されることとなりました。
そして、近年では「生理休暇」は女性活躍推進法の成立や女性労働者のパフォーマンス維持のための健康経営の一環としての視点に変化しています。
制度運用時の注意点
生理休暇は単なる法的義務ではなく、企業の健康経営や女性活躍推進の側面においても重要な評価要素となります。
企業が生理休暇制度を運用する際は、生理等の身体的負担を抱える女性がパフォーマンスを維持しつつ健康を損なわないで働き続けられるための仕組みづくりが求められます。主に以下に注意するとよいでしょう。
・制度の周知と理解促進
女性労働者の生理休暇の取得率が低い原因としては「男性上司に言いづらい」「さぼっていると思われたくない」等の心理的な障壁です。
まず、管理職や全従業員に対して生理に伴う体調不良(PMSや月経困難症)には個人差があることやコントロールできない健康課題であることを教育し、生理休暇は女性労働者の特別な権利ではなく、女性労働者が健康を損なわない働き方を維持するために必要な権利であることの理解を促進することが大切です。
また、前述した通り、生理は女性に限られた人間のバイオリズムの一種と捉えられるため、「生理休暇」は休憩時間や勤務観インターバルの確保と同様に、女性従業員がパフォーマンスを維持して働くために必要な制度である、という前提の理解が男性従業員を含めた全従業員に必要です。なぜなら、そのような考え方が最終的に企業としての生産性を高めることにつながるためです。
また、「生理休暇」という名称が女性労働者にとって取得しづらい原因となっていることから、「ヘルスケア休暇」等に名称を変更することも取得率を上げる上で有効です。
・ハラスメント防止対策(不利益取り扱いの禁止)
生理の周期や症状を詳しく聞くことや、推測で生理日を聞くことは「セクシュアルハラスメント」に、生理休暇の取得に対して否定的な発言をする、生理休暇の取得を原因として人事評価で不利に扱うことは「パワーハラスメント」に該当します。
就業規則などにハラスメント方針を明確化し、従業員に周知すること、ハラスメントに関する研修等を行う、ハラスメント相談窓口を設置する等の防止対策の実施も重要です。
・対象者が利用しやすい職場環境の整備
対象者が普段より生理休暇制度を利用しやすい職場風土づくりは、とても重要です。そして、他の従業員(特に男性従業員)から公平性に関する不満が生じる可能性を考えても、全従業員が働きやすいと思える職場環境や風土を普段から作ることが大切です。制度利用により、周囲の従業員の負担が増大することを考慮し、事業主は普段より業務配分の見直しや業務効率化を行い、日ごろから従業員同士が業務をカバーできる体制を整備することが大切です。
また、生理をはじめとした健康問題については上司に相談しづらいことも多いため、普段より従業員が自発的に相談しやすい健康相談窓口の設置等の相談体制を整備、活用していくことも求められます。なお、相談窓口の設置にあたっては労務管理に精通した専門家の知見をもとに外部相談窓口を設置することも効果的です。
このように労働力不足が問題視される現代の日本の労働市場においては、多様な背景をもった人々を個人として配慮し、協同してコミュニケーションをとりながら働く、柔軟な労働環境づくりがより一層求められます。
ケアの倫理と生理休暇
上述した通り、「生理休暇」は女性労働者の現場の声により生まれた「母性保護」の観点から生まれた休暇です。この成立経緯はまさに過去のコラム(①・②)で解説した「ケアの倫理」を反映するものです。過去コラムでも「ケアの倫理」の視点が歴史的にも日本に多く存在していると解説していきましたが、「生理休暇」は国際的にみても日本独自の法制化された休暇となっていること(実際に労働に関する国際的な基準を定めたILO条約には生理休暇の規定は存在していません)から、日本においてケアの倫理の視点を大切にしていた歴史を実証しています。
このように、法律においても「個人の尊厳や自由を守るためにつくられた法(自然法)」という「ケアの倫理」の視点を取り入れた制度が長きにわたり存在していることが伺えます。
今後は、事業主にとって、メンタルヘルス対策や働きやすい職場環境づくりといった「ケアの倫理」の視点を取り入れたソフト面での仕組みづくりがより求められ、実際に労働者や社会からもそのような取り組みがされている企業が評価されつつあります。このような仕組みづくりにおいては、事業特性や組織風土に合った形で制度に実装できる、労務に精通した専門家のサポートが不可欠です。
弊法人では、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っております。ぜひご活用ください。
また、女性活躍推進に関する認定である「えるぼし認定」の取得は、企業イメージの向上や公共調達における加点評価などの具体的なメリットをもたらします。プラットワークスでは「えるぼし認定」取得申請のご支援を積極的に行っております。詳細は弊法人のサービス一覧をご参照ください。
さらに、弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。従業員にとって、相談することで心の負担を軽くする外部の相談窓口として活用いただくことができます。
Plattalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。



