もくじ
戦後の日本企業の人事制度は、経済環境や企業の成長段階に応じて大きく形を変えてきました。人材不足や価値観の多様化が続く現在、企業がどのように従業員の成長と組織競争力を両立していくのかについて考えるうえで、この歴史の流れを理解することは非常に重要です。
過去コラムでも触れたとおり、人事制度は単なる給与や評価の仕組みではなく、企業が「どのような人材にどのような行動を期待するか」を示すメッセージです。その設計思想は、時代に合わせて変化し続けてきました。
今回は戦後の人事制度がどのような流れで変遷してきたのか、そして今なぜ「貢献」の視点が求められるのか見ていきましょう。
職能資格制度:戦後日本型雇用が支えた「能力の蓄積と長期育成」
高度経済成長期は企業が大量採用を進め、社内で人材を育てながら成長していった時代であり、そのなかで広く使われたのが「職能資格制度」でした。
この制度は仕事の成果ではなく、発揮された能力や潜在的な力を基準に処遇を決めるため、年齢や勤続と連動しやすい特徴がありました。当時は多くの企業が資金に余裕があったため、長期雇用を前提に企業が育成コストを負担することができたことや、ピラミッド型の年齢構成のもとで、組織拡大によって昇進ポストも十分にあったため制度はうまく回っていました。しかし、バブルがはじけ経済が停滞・低成長期に入ると、能力の定義が曖昧で評価がぶれやすいことや年功的な処遇に偏りやすいこと、ポスト不足で成長機会が限られることが問題となり、制度の公平性や効果が揺らはじめ、多くの企業が見直しを迫られる状況になってしまいました。
「年数を重ねていけば能力は上がっていく、そして上がった能力は落ちない」という考えのもと進められてきた制度ですが、実態と合わない部分が多く出てきたということです。「能力」という目に見えないものを測るのは非常に難しく、その点も公平性や納得感に疑問を持たれる要因の一つになったとも言われています。
もちろん、技術などを磨き続けることで能力が上がっていくということは間違いなくありますし、能力資格制度は今でもしっかり活用すればマッチする業種もあります。ただ、これだけ多様化した時代の中で一律に当てはめて運用することは難しくなってきているということなのだと思います。
職務等級制度:成果主義を背景とした「ジョブ」への転換
1990年代以降は低成長への対応やグローバル化の影響から、欧米で一般的な「職務等級制度(ジョブ型)」が日本でも注目されるようになりました。職務の価値に応じて処遇を決めるこの仕組みは、公平性や説明のしやすさを高める点で有効とされ、生産性向上や成果に応じた公正な処遇、経営効率化の必要性とも合致していました。しかし、日本企業では職務が固定されることが多くの異動を前提とする、いわゆるメンバーシップ型雇用の形態や人材そのものを重視する日本の企業文化と合わず、長期的な育成も進みにくいこと、総合職として幅広い業務を経験させる仕組みと整合しないことから、完全な定着には至りませんでした。その結果、職能の曖昧さと職務の硬直性の両方に課題が残り、新たなアプローチが求められる状況になりました。
ここでお伝えしたいのは、制度自体の優劣があるのではなく、その国や企業の文化、掲げる人事ポリシーに合った制度を導入しないと、どれほど良い制度、素晴らしい企業であってもうまくいかないということです。
役割等級制度:職能と職務の課題を統合する新しい考え方
2000年代以降に多くの企業が取り入れた「役割等級制度」は、職能と職務それぞれの良さを組み合わせながら、今担っている役割の大きさや今後期待される役割に応じて処遇を決める仕組みとして広がってきました。
この制度は、異動や業務変更で役割が変わった際にそれを反映しやすく、環境の変化にも柔軟に対応でき、社員の成長段階を処遇に結びつけやすい点が特徴です。
一方で、実際の運用では役割の定義が曖昧なまま運ばれてしまうことや役割をどの程度果たしているかを測りにくいこと、成果と成長が混ざって評価されがちなことなどが課題として指摘されています。

ここまで各制度が持つ課題を解消するうえで有効なのが、以前のコラムでも触れた「拡大×深化」で貢献を捉える「役割貢献制度」です。
役割の拡大 × 深化で貢献する力を生み出す
冒頭で貢献の視点が重要であることをお伝えしましたが、なぜそれが求められるのでしょうか。それは、不確実で多様化する今の時代において、目に見える成果だけでは見逃されてしまう行動や成長、そして心の動きを捉えることが必要だからです。
役割の「拡大 × 深化」が求められる背景には、成長を具体的に可視化できることが挙げられます。業務範囲の広がりと難易度・再現性の高さを二軸で整理することで、従業員がどの領域に貢献しているかを立体的に把握できるようになります。役割を拡大・深化させていくということは、自分の担当する業務範囲を広げつつ専門性や再現性を高めることになりますので、価値提供の量と質が向上することになり、その結果として組織・社会・個人それぞれに対する貢献する力が身につく=貢献度が高まるという考え方になります。
また、昇級は長期的な役割成長、賞与は短期成果というように目的を分けて評価することによって公正性や納得感も高めることができます。さらに、この考え方は「どこまでできているか」「次に何を目指すか」を具体的に語れるため、1on1や育成のコミュニケーションツールとしても活用することができます。先に触れた日本企業が持つメンバーシップ型雇用の運用とも相性がよく、ジョブ型の硬直性と職能型の曖昧さを同時に解消できる点も大きな利点で、職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度それぞれのデメリットを補うことができるのです。
運用面では、日々の行動を理解し、再現可能性を見極める貢献度アセスメントにより、OJT文化を現代的にアップデートする仕組みとして活用することになります。
一方で、どれほど制度が整っていても現場では不満や不安がつきものです。こうした感情に安全に向き合える場として、PlaTTalksのような第三者相談窓口が制度の定着と心理的安全性の確保を支えることになります。この役割貢献制度&PlaTTalksの両輪で組織を支える仕組みによって、職能型・職務型・役割型に続く新時代の人事制度として組織の成長(拡大)を促し、シンカ(深化+進化)させていきましょう!
組織に合った人事制度を実際に機能させるためには、制度設計だけでなく、その運用を支える体制づくりが不可欠です。期待される役割や評価基準、処遇の考え方を明確にし、それらを日常のマネジメントに落とし込む仕組みを整えることで、制度は初めて企業の成長を支える実効性のある仕組みになります。
プラットワークスでは、事業戦略や組織課題に応じた人事制度や株式報酬制度の設計に加え、運用が定着するためのプロセス整備や評価者研修など、実務に密着した支援を提供しています。
制度の導入や見直しをご検討の際は、ぜひお声がけください。
制度構築 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
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