もくじ
過去のコラムでは、組織への義務的なつながりを示す「コミットメント」に対し、自発的かつ主体的な活動への活力や熱意を示す「エンゲージメント」の重要性について解説しました。実は「エンゲージメント」にも根拠となる考え方によっていくつか種類があり、企業がどのエンゲージメントを重視するかによって、人事制度や労働環境への活用の仕方が異なります。
今回のコラムではエンゲージメントの具体的な定義とその種類について解説し、多様化する労働市場においてプラットワークスで重視しているエンゲージメントの考え方をお伝えしていきます。
エンゲージメント
「エンゲージメント」(Engagement)とは、自発的な意思によって活動に対して活力・熱意をもって没頭している状態(The process of encouraging people to be interested in the work of an organization)を指し、一時的な気分によるものではなく、持続的であること、主体的であることが特徴です。
なお、この「エンゲージメント」はビジネス領域においては「従業員エンゲージメント」、「ワーク・エンゲージメント」、「顧客エンゲージメント」の以下3種類があげられます。
従業員エンゲージメント
「従業員エンゲージメント」は従業員が企業に対して抱く愛着心、信頼感や貢献意欲を示します。従業員が企業の目標や価値観に共感し、自発的に企業に貢献したいという意欲をもっている状態です。アメリカの心理学者シュミット氏らは「従業員エンゲージメントとは、従業員をつなぎとめる手段の一部であり、社員の仕事への関わり合いの度合い、コミットメントの度合い、満足度合いといったもので構成される」としています。
また、シュミット氏の研究をもとに、従業員エンゲージメントを測定するツールとして、Gallup Q12(キュー・トゥエルブ)を開発しました。Gallup Q12は従業員エンゲージメントの測定を可能とし、この測定によって、従業員エンゲージメントと企業の生産性、収益性、従業員の離職率などの指標と明確な相関関係があることが明らかとなりました。
このように、企業の経営指標としても、従業員エンゲージメントの向上は重要であるといえます。
なお、「従業員エンゲージメント」には組織への信頼感や愛着心を示すため、過去のコラムで解説した「コミットメント」(=組織に対する義務的な約束)も従業員エンゲージメントを構成する重要な要素の一つです。
しかし、過去のコラムで解説した「エンゲージメント」が自発的かつ主体的な組織への関与を示すのに対し、コミットメントは組織に対する恩義や義務感に基づく側面を持つため、受動的な組織への結びつきになることがあります。この点において、自発性のあるエンゲージメントと義務感から生じるコミットメントには明確な違いがあります。
ワーク・エンゲージメント
「ワーク・エンゲージメント」は従業員個人が仕事にやりがいをもち、ポジティブで充実した心理状態にあることをさし、バーンアウト(燃え尽き)の対概念として、オランダの心理学者シャウフェリらによって提唱されました。また、特定の対象、出来事や個人、行動に向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的な状態です。
ワーク・エンゲージメントは、以下の3つの要素が揃っていることによって特徴づけられます。
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要素 |
定義 |
具体例 |
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1. 活力(Vigor) |
仕事に対する高いエネルギーと精神的な回復力がある状態。仕事に労力を惜しまない。 |
困難な状況でも、へこたれずに仕事に積極的に取り組める粘り強さがある。仕事から活力を得て、疲弊しにくい。 |
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2. 熱意(Dedication) |
仕事に誇りややりがいを感じ、強い熱意と意欲を持っている状態。 |
自分の仕事に強い意味や重要性を見出しており、「この仕事が好きだ」「誇りを持っている」と感じている。 |
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3. 没頭(Absorption) |
仕事に完全に集中しており、時間が経つのを忘れるほど夢中になっている状態。 |
集中力が高く、まるでフロー状態のように、時間があっという間に過ぎてしまう感覚がある。 |
また、ワーク・エンゲージメントを測定する尺度としてUtrecht Work Engagement Scale:UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度)が開発され、以下3つの要素を測定し、仕事に対するポジティブで充実した度合いを測定することができます。
ワークエンゲージメントが高いことで、個人の心身の健康面の向上や職務満足感が高くなることの関連が示唆されています。また、仕事に対する意欲やパフォーマンスが高まることで、自発的な自己啓発学習や、組織のための行動やリーダーシップ行動がとられ、サービスの向上にもつながることで、顧客エンゲージメントの向上にもつながるとされています。
顧客エンゲージメント
「顧客エンゲージメント」とは、企業と顧客の間で生まれる信頼関係とそこから生まれる双方向のつながりをさします。顧客エンゲージメントは双方向のつながりであることと、顧客側からの自発的で積極的な企業への関わりがあることが特徴です。
現代においては数多くの類似したサービスや商品が展開されていることから、単なる価格やスペックのみならず、顧客からの信頼や愛着心を得ることが顧客に自発的にサービスや商品を選んでもらうために重要とされています。また、顧客エンゲージメントの向上に伴って、従業員側もより職場への信頼感が増したり、仕事に対してのモチベーションがあがったりするため、従業員エンゲージメントやワーク・エンゲージメントの向上につながるものでもあります。
従業員エンゲージメントとワーク・エンゲージメントの違い
このように、「従業員エンゲージメント」と「ワーク・エンゲージメント」はどちらも「エンゲージメント」の一種ですが、焦点となる対象と概念の広さが異なります。
「従業員エンゲージメント」が個人の企業(組織)に対する感情に焦点を当てているのに対し、「ワーク・エンゲージメント」は企業を対象とせず、従業員個人の仕事に対する心理状態に焦点を当てています。また、概念としても従業員エンゲージメントは仕事内容から上司との人間関係、組織風土、報酬など広く取り扱う概念であるのに対し、ワーク・エンゲージメントは仕事自体への意欲や熱中度など仕事に対する心理状態に特化している狭い概念となります。
組織の発展、パフォーマンス向上のためには、従業員エンゲージメントはもちろん、ワーク・エンゲージメントの向上も大事であり、どちらも重要な概念であるといえましょう。
フリーランスやギグワーカーといった組織の垣根を越えた働き方、副業の増加、雇用形態の多様化が進む現代において、組織を含めた関係性(リレーショナルな繋がり)はより複雑かつ多様になっています。このような状況下で、単なる指示やルールに基づく行動ではなく、従業員が自発的な責任感をもって仕事に取り組み、持続的な成果を出し続ける原動力となるのが、「ワーク・エンゲージメント」です。
従業員エンゲージメントが『組織への愛着』を問うのに対し、ワーク・エンゲージメントは『個人と仕事の関係性』に焦点を当てます。
『働く自由』を理念とするプラットワークスでは、組織の中で自らの役割を見出し、自発的に責任を全うする活力が、持続可能な成長の基盤となると考えており、働く人々の意欲と組織を含めた関係性の維持、そして労働者個人の自発的な貢献意欲を重視する立場から、「個人の主観的な仕事に対する心理状態」である「ワーク・エンゲージメント」が今後の労働環境において最も重要度が増してくると考えています。
そのため、プラットワークスでは、作成する記事において「エンゲージメント」を表記する際は、論旨をより明確にする目的を含め、狭い概念である「ワーク・エンゲージメント」の定義を用いて執筆する方針としています。
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項目 |
従業員エンゲージメント |
ワーク・エンゲージメント |
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焦点の対象 |
個人と組織(会社)全体の関係 |
個人と仕事の関係 |
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定義 |
従業員の貢献意欲と組織への愛着や一体感 |
仕事に関連するポジティブで充実した心理状態(活力・熱意・没頭) |
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概念の広さ |
広い(仕事、上司、組織風土、報酬など全てへの関与を含む) |
狭い(仕事への意欲・熱中度に特化) |
ワーク・エンゲージメントとポジティブ心理学
なお、ポジティブ心理学の観点でもワーク・エンゲージメントの考えが重視されています。ポジティブ心理学の創始者であるセリグマンはうつ病患者が病気を治しても幸福度が高く見えない点に着目し、人のポジティブな心理状態やよりよく生きることに視点をあてた心理学としてポジティブ心理学を提唱しました。そして、人が幸福を感じる(ウェルビーングを高める)ための5要素を述べた「PERMA」モデルを提唱し、そのうちの「E:Engagemenent(エンゲージメント)」はまさに仕事における充実した心理状態である、ワーク・エンゲージメントに対応する概念となります。
<PERMAモデル>
今後の労働環境とワーク・エンゲージメントの重要性
高度経済成長期においては年功序列、終身雇用制度を前提としてたくさん働きより高い報酬を得て、社会を発展させることを重視していたため、「経済的な対価を得る」・「社会的な地位を得る」等が働く上の重要な価値とされ、必ずしも「エンゲージメント」は重視されていませんでした。
しかし、現代は少子高齢化に伴い人材不足が深刻となっていること、過労死やメンタルヘルス問題の増加に伴い、長時間労働の見直しとワークライフバランスへの注目、そして、多様な働き方をする労働者の増加等に伴い「従業員エンゲージメント」、「ワーク・エンゲージメント」を高めることが重視されてきています。
プラットワークスは「働く自由をすべての人に」という理念のもと、すべての人が「やりがい」「自己成長」といった精神的な価値を原動力にして働くことができる社会を理想としています。そして、このような理想の実現のために、経営者、従業員ともに自発的に仕事に対して精神的な価値を見出し、それぞれの力を最大限に発揮し、地域や社会に貢献できるように、その基盤となる組織づくりの支援を行っています。
弊法人では、事業主の事業特性や組織風土に合った働きやすい職場環境のための制度構築支援を行っております。
特に、「ワーク・エンゲージメント」の向上には、心理的安全性の確保と自律性を高める制度設計が不可欠です。
また、「ワーク・エンゲージメント」を戦略的に高めるために従業員の「仕事への熱意(ワーク・エンゲージメント)」を高め、定着率と生産性を同時に向上させるためには、人事制度とメンタルヘルスケアを一体で考える必要があります。
プラットワークスは、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同による、国内唯一の統合型支援サービス「PlaTTalks」を提供しています。カウンセラーによるメンタルヘルスケアに加え、職場環境に起因する問題がある場合は、労務の専門家である社会保険労務士が連携し、労務リスクの低減とワーク・エンゲージメントを高めるための制度設計までをワンストップで支援します。
「仕事のやりがい」を高める組織基盤を構築したい経営者様、人事責任者様は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の事業特性に合った、持続的な成長を実現する人事制度設計をご提案します。



