【競争優位を築く】一般事業主行動計画を「義務」から「エンゲージメント戦略」へ転換する仕組み

企業組織の多様性と柔軟性が重視され、日本の労働環境における価値観が大きく変わる中、現代の企業が目指すべきは、イノベーションと持続的な成長です。しかし、次世代育成支援対策推進法(次世代法)・女性活躍推進法によって義務化された一般事業主行動計画への対応が、多くの企業では法令遵守を主たる目的とした消極的なものになっています。

一般事業主行動計画は従業員数101人以上の企業は策定義務の対象となっており、厚労省の2025年9月末時点のデータによれば、義務の対象となる企業数は5万を超えます(厚生労働省「女性活躍推進法に係る一般事業主行動計画策定届出状況」、 2025年)。

組織強化の好機である子育て支援や女性活躍推進の取組が、義務感に支配されると働く人々の「やらされ感」を生み、自発的な貢献意欲(エンゲージメント)を失速させます。

そこで今回は、一般事業主行動計画を策定する企業の現状と、行動計画の本質的な機能と、エンゲージメント戦略へ転換させる意義について、深掘りしていきたいと思います。

一般事業主行動計画の策定が義務化された背景

1990年の「1.57ショック」で少子化問題を強く認識した日本政府は、1994年に「エンゼルプラン」、1999年に「新エンゼルプラン」を策定し、保育サービスの拡充や仕事と子育ての両立支援を目的とした雇用環境整備を中心に推進し、問題の解決に取り組みました。

しかし、当時の実態としては育休取得に対する職場の理解や代替要員の確保等、両立支援に取り組む上では体制が不十分であった企業が多く、育休取得率では女性は既に高水準であったものの、男性は極めて低く、少子化に歯止めをかけることができませんでした。

そこで日本政府は2002年に「少子化対策プラスワン」を策定することにより、企業による仕事と育児の両立を目的とした柔軟な働き方の実現や地域社会での育児支援等、総合的な取組によって子育て支援を行う形へとシフトするようになりました。

この流れを受けて、政府は次世代を担う子どもを養育する家庭を社会全体で支援すべく、計画的な取組の実施を地方自治体及び企業に促すことを目的として、2005年に次世代育成支援対策推進法(次世代法)を施行しました。このタイミングで企業は次世代法によって、仕事と育児の両立支援に関する一般事業主行動計画の策定が求められるようになりました。

その後、男女の固定的役割分担の問題や、労働人口減少の深刻化、女性のキャリア継続や登用が進まない実態を踏まえ、2016年4月に女性活躍推進法が施行され、企業には女性の活躍に関する一般事業主行動計画の策定も義務として新たに加わることとなりました。

一般事業主行動計画策定の義務化は、社会全体の要請として企業にダイバーシティへの対応を強く求めた結果と言えます。

企業の対応状況

一般事業主行動計画の策定義務対象となる企業の策定状況としては、次世代法に基づく行動計画では届出率が2024年9月末時点で98.6%(厚生労働省「都道府県別一般事業主行動計画策定届の届出及び認定状況」、2025年)、女性活躍推進法に基づく行動計画の届出率は2025年9月末時点で96.7%(厚生労働省「女性活躍推進法に係る一般事業主行動計画策定届出状況」、2025年)と、ほとんどの企業が届け出ています。

しかし、企業が行動計画を策定する際は、両立支援や女性活躍に関して問題意識がありつつも、法令遵守や社会的責任といった外的要因による形式的な対応に留まっていることがうかがえる調査報告もあります。

[画像1]:仕事と生活の両立支援策に取り組むきっかけ・理由

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「次世代育成支援対策推進法の施行状況に関する調査」、2021

[画像2]:企業規模別 行動計画作成理由の経年比較(行動計画作成企業のみ)

出典:東京海上ディーアール株式会社『女性活躍に関する調査』報告書、2024

「義務」の先にある一般事業主行動計画の真価

 義務感に基づいた一般事業主行動計画の策定は、従業員の「やらされ感」を生み出し、自発的な貢献意欲を削ぎ、目標達成のために設けた両立支援に関する制度や、一般事業主行動計画の存在自体が形骸化してしまいます。

「やらされ感」を超えて行動計画を戦略化する鍵は、働く人々が自ら行動する内発的な原動力にあります。この原動力は、①自ら選べる裁量、②能力を発揮できる充実感、そして③信頼できる人間関係という心理的土台が満たされることで生まれます。行動計画を、これらの意欲の根源的なニーズに応える実効性のあるツールとして運用することで、法令遵守を超えた真のエンゲージメントが組織に根付きます。この原理と、義務的なコミットメントと真のエンゲージメントの違いについて、詳しくは弊法人コラム【エンゲージメントとコミットメントの決定的な違い】をご覧ください。

社会的責任を果たすだけでなく、それが企業理念や経営戦略と強く結びつき、「会社はどう変わり、自分たちはどうなれるのか」という未来への期待と、それを実現するための具体的なメリットを従業員が感じ自身の役割を認識し、腹落ちして行動できるかどうかが重要です。つまり、一般事業主行動計画の策定は、単なる義務ではなく、エンゲージメントと競争優位性向上を実現する戦略的な好機となるのです。

この好機を活かすためには、策定における企業の課題に応じた目標内容の適切な設定及び、策定後の取り組み内容が重要です。計画を組織全体に深く浸透させ、トップダウンで目標を共有するだけでなく、現場の従業員が計画の策定や実行、進捗確認に参画できる仕組みを設けることが不可欠です。例えば、行動計画策定を目的としたプロジェクトの組成や、アンケートの実施及びアンケートの回答を踏まえた研修の実施などが挙げられます。現場の声に基づく施策は、従業員のニーズに合致しやすいため、実効性が高まり、「やらされ感」は「自分事」へと変わります。

一般事業主行動計画を本質的に機能させるには、経営層の積極的な関与と、掲げた目標を達成するための具体的なプロセス設計が必要です。特に、目標と現場の実行力との間に存在するギャップを埋めるためには、計画策定時に自社の経営課題と紐づけたKPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクルを効果的に回すための仕組みづくりが重要です。

さらに、行動計画は一度作って終わりではありません。計画の進捗と成果を定期的に測定・評価し、その結果を全従業員に透明性をもって公開し続けることが、信頼感と継続的なモチベーションに繋がります。このPDCAサイクルを組織のマネジメントサイクルに組み込むことで、一般事業主行動計画は単発のイベントではなく、組織の文化と成長を牽引するツールへと進化します。

義務感の先にある一般事業主行動計画の真の価値は、法令遵守という最低限のラインを超え、本質的な課題解決に向けた目標設定をすることで、従業員のエンゲージメントを高め、多様な才能が最大限に開花する「環境」を創り出し、結果的に企業価値の持続的な向上を実現することにあるのです。

成果に繋がる一般事業主行動計画にするために

このように、一般事業主行動計画を単なる法令対応で終わらせず、実効性のある仕組みとして構築し運用していくためには、DE&I推進や人的資本経営の実現にコミットする専門的な知見とノウハウが欠かせません。加えて、現場の実態に即した課題抽出、経営戦略との整合、経営層の意思決定支援、そして計画を組織に浸透させるための伴走型の実行支援までを一体的に提供できるパートナーの存在が重要となります。

弊法人では、豊富な支援実績に裏付けられた専門知識と戦略的ノウハウをもって、一般事業主行動計画の策定、えるぼし・くるみん認定の申請支援はもちろん、その先にある組織変革の実現までを一貫してサポートいたします。単なる制度整備にとどまらず、経営戦略との整合性を踏まえた計画立案、現場を巻き込んだ運用設計、継続的な改善サイクルの構築までを包括的に支援することで、企業価値向上につながる持続的な取り組みへと導きます。

私たちは、行動計画を法的なノルマとして留めず、エンゲージメントと競争優位性向上を実現する戦略的ツールへと転換させることに主眼を置いており、以下のサービスラインナップをご提供しています。

戦略的支援サービスラインナップ


1:課題抽出分析に基づく行動計画策定
➤アンケート調査やヒアリングなどを用いた客観的な課題抽出・分析に基づき、貴社の実態に即した実効性の高い一般事業主行動計画を策定します。

2:次期中期経営計画の策定支援
➤多様性推進や働き方改革の視点を組み込み、行動計画と経営戦略が深く連動した次期中期経営計画の策定をサポートします。

3:経営層向け戦略研修
➤他社のベストプラクティス(成功事例)紹介を含め、多様性推進が企業価値向上に繋がることを理解いただくための経営層向け戦略研修を実施します。

4:プロジェクト組成と実行アドバイザリー
➤計画の実行を推進するプロジェクトの組成を支援し、実行段階ではアドバイザーとして参画することで、人的資本開示への対応や組織に対する行動計画の確実な浸透及び行動計画に基づく組織文化の定着を伴走支援します。

一般事業主行動計画策定支援 - 社会保険労務士法人プラットワークス|東京都千代田区・大阪府大阪市

企業認定制度申請代行支援 - 社会保険労務士法人プラットワークス|東京都千代田区・大阪府大阪市

また、弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

人事労務アドバイザリー - 社会保険労務士法人プラットワークス|東京都千代田区・大阪府大阪市

 

関連サービス

人事アドバイザリー

日常的な労務管理に関するご相談から、例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

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企業認定制度

国の行政機関や一般社団法人などが実施している企業認定制度は企業にとって、従業員が働きやすい環境が整ったり、自社の強みを優秀な人材や顧客へアピールできるなどのメリットにつながります。弊法人が貴社にとって有意義な認定制度のご提案から取得にいたるまで一連の流れを代行やご支援という形でサポートいたします。

関連サービス

制度構築

弊法人は、就業規則や評価制度の整備、業務改善支援など制度構築の支援を行っております。貴社の事業特性を組織風土を踏まえた運用しやすい制度をご提案することにより、貴社の社員の力を引き出し、事業のさらなる発展に寄与します。

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