【くるみん認定取得に向けた法対応】子育て関連規定を学ぶ~⑤所定外労働の制限~

くるみん認定基準において「雇用する労働者一人当たりの時間外労働及び休日労働の時間数」の要件が記載されたように、「子育てサポート企業」の認定を受けるためには子育て世代に限らず、すべての労働者に対して残業を抑制する働き方の整備が求められています。

少子高齢化に伴い労働力不足が深刻となっている現代において、出産・育児で今まで働くことが難しかった労働者が仕事と家庭の両立を可能とするための柔軟な働き方ができる環境整備は重要となっています。そのうち、育児をする従業員の長時間労働を制限する制度として「所定外労働の制限」「時間外労働の制限」があげられます。

これらの2つの制度は、制度の呼称だけでなく内容も似ていることから混同しやすく、多くの企業において必ずしも活用につなげられていない現状があります。今回のコラムでは制度創設までの背景、歴史とともに概要とその違いについて解説していきます。

所定外労働の制限(残業の免除)

「所定外労働の制限」とは、事業主があらかじめ決めた労働時間(所定労働時間)を超える労働について、一定の条件を満たす労働者が希望(請求)すれば、事業主は原則所定外労働をさせることができない制度です。いわゆる「残業」とは「所定外労働」のことを指します。たとえば就業規則で定められた所定労働時間が午前9時から午後5時の場合、この時間以外の労働時間(所定外労働時間)を制限することとなります。ただし、請求は1回につき1か月以上1年以内の期間とし、開始日の1か月前までに請求する必要がありますが、請求回数に上限はなく、繰り返し請求可能です。

<対象者と条件>
日々雇用される者を除く小学校就学前の子を養育する労働者が対象ですが、管理監督者は対象外です。また、労使協定によって①継続雇用1年未満、②週の所定労働日数が2日以下の労働者を対象外とすることができます。

制度成立の背景

本制度が成立されたのは20106月の「育児介護休業法」の法改正の時です。その背景としては、女性の社会進出と1990年代以降の急速な少子化の進行に伴い、子育てと仕事の両立支援の必要性が増したことがあげられます。そして、日本型雇用に多く見られる長時間労働・男性中心の働き方を求める労働環境が、育児を行う労働者(主に女性)が働き続けることを断念させる要因となっていたことから、子育て期の労働者が労働を継続できるよう環境整備の一環として求められていたことが考えられます。
実際に育児休業を取得した女性労働者の6割が、職場に復帰せずそのまま退職していること、男性の育児休業取得率が上がらないこと(厚生労働省「成年者縦断調査」、2009年)、子どもが小学生の時に離職した子育て世代の女性の約4割が「職場の残業が多い」ことを離職理由としていた(パーソル総合研究所「ワーキングマザー調査」)調査結果がでており、主に育児を担う女性労働者が子育てと両立して働き続けることができるよう、この制度が創設されました。

所定外労働の制限と時間外労働の制限の違い

「所定外労働の制限」に類似した制度として、「時間外労働の制限」があります。
所定外労働は始業・終業時刻(定時)以外の時間に働くこと(=残業)を指すのに対し、時間外労働は法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて働くことを意味します。また、時間外労働は割増賃金が発生する残業となります。また、時間外労働の制限では、労働者が請求した時、事業主は原則として、就業規則や時間外労働協定等で定めた時間外労働の上限時間に関わらず、1か月につき24時間、1年につき150 時間を超える時間外労働(法定時間外労働)を禁止しています。

例えば始業時刻10時、終業時刻を18時(途中休憩1時間、実働7時間)とした場合の所定外労働の制限及び時間外労働の制限のイメージは以下のようになります。

 

 

所定外労働

時間外労働

定義

会社の所定労働時間を超えて働くこと

法定労働時間(18時間・週40時間)を超えて働くこと

割増賃金

不要

必要

労使協定

不要

必要

所定外労働の制限における注意点

では、所定外労働の制限の請求があった時や、それに際して事業主としてできる対策や注意点はどのようなことがあるでしょう。主に以下が挙げられます。

・制度理解と従業員への周知
従業員から容易に請求ができるように、制度が導入されており育児休業規定などに定めてある旨を従業員に周知しましょう。また、事業の正常な運営を妨げる場合にのみ所定外労働の制限が適用されませんが、その場合であっても該当の請求した従業員が所定外労働の制限を受けられるように相当の努力を行う必要があります。

・適正な労働時間の把握と業務調整
制度の活用にあたり、特定の部署や従業員に残業時間の偏りが起きる可能性があります、その場合は業務量が適正か調査を行い、従業員の負担や業務量の調整を行いましょう。単なる残業時間の削減に努めるのではなく、事業場内の生産性の向上を目指し、業務効率化や無駄な業務の削減などを行うことが大切です。

・制度利用により不利益を与えない
所定外労働の免除を請求したことで、不当な減給や解雇をすること、制度を利用する従業員に不利益な人事評価を行うことは法律で禁止されています。不利益取り扱いを行っていないか、厚生労働省のホームページで確認するようにしましょう。 

今回のコラムでは子育て関連規定の5つ目、「所定外労働の制限」について解説しました。制度利用時に希望者が制度内容を理解し、安心して制度活用ができるよう、企業や人事労務担当者が従業員に対し制度の目的や要件を十分に理解し説明できるようになることはもちろん、制度を活用する従業員のサポートや周囲の従業員の負担を軽減できるような仕組みづくりをしていくことも大切です。そして、このような制度利用や働きやすい職場環境整備において各種制度や企業の労務管理に精通し、企業の実態に応じたアドバイスのできる専門家のサポートが重要となります。

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