もくじ
労働安全衛生規則の改正により、2027年1月から個人事業主および中小事業主の役員等の死傷病報告(現場で事故が起きたことを労基署へ知らせること)が義務化されます。
安衛法上では『個人事業者』と定義されていますが、一般的には個人事業者は一人親方やフリーランスと呼ばれる方々を指します。中小企業主とは中小企業の社長を指します。
今回の報告義務化の対象はこの、個人事業主と中小企業主の代表や役員です。
この記事では具体的に何が変わるのか、発注者は何をするべきか、そして特別加入制度の経緯とサポート体制について解説していきます。
改正安衛則の意図
現場の危険性を正しく把握する為の法改正
これまで、労働安全衛生法に基づく死傷病報告は「雇用されている労働者」に限定されていました。
現行法では、フリーランスや一人親方は「個人事業主(=社長)」と定義されます。社長が自分の現場で怪我をしたとしても、それは「労働災害(労働者の事故)」ではないため、労基署への報告義務が発生しません。
この「法律上の報告義務がない」という一点を理由に、統計から除外することが適法にできてしまっていたことが長年問題視されてきました。
そこで、雇用形態に関わらず「その場にいる人」が怪我をしたら報告させよう、となったのが今回の改正の意図です。
「隠れ事故」の可視化と公平な競争
建設業界などを筆頭に、これまで現場の事故報告は、行政の入札資格や格付け(点数)に直結する死活問題でした。
正直に報告をして「格付けが下がるリスク」を負ってきた誠実な会社がある一方で、個人事業主の事故を「報告義務がない」として統計から外すことで、見かけ上の安全実績を維持できていた会社も存在しました。
今回の義務化は、こうした不公平を解消する狙いもあるほか、同じ場所で働き、同じ危害リスクにさらされている以上、「法の保護が及ぶ対象に、雇用形態による差はない」という安全衛生の本質に立ち返る改正といえます。
実務上の重要ポイント5点
個人事業者に仕事を請け負わせた注文者(最も後次の者)は、労働者と同一の場所で作業する個人事業者が、業務上の傷病により休業等したことを把握したときには、遅滞なく所轄労基署へ報告するよう義務付けられます(改正安衛則 98 条の2)。
「同一場所」での作業者が対象
改正法案には上記の通り「同じ現場で働く場合に、発注者が一括して安全管理を行う」とされています。つまり、発注者の管理下にある現場(オフィス、建設現場、店舗など)にいないリモートワーク等のケースは、原則として報告義務の対象外と解されます。(例:在宅勤務のライターが業務中に怪我をした場合等)
休業4日以上の死傷災害が報告対象
労働者(雇用されている人)の死傷病報告と同様、「4日以上の休業」が発生した場合に報告義務が生じることが明確になりました。軽微な擦り傷程度ではなく、一定以上の重症度が対象です。
特定注文者(直近の依頼主)による報告
「誰が報告するのか?」という点については「特定注文者」という言葉が使われています。特定注文者とは、基本的にはフリーランスへ直接仕事を依頼した直近の上位者を指します。つまり、多重下請け構造の場合は現場のトップではなく、直接その人に仕事を振った会社が責任を持つということです。
把握している情報での「遅滞なき報告」
たとえば「年齢がわからない」など、事故当時の現場の混乱が想定されます。そういった場合には「把握できている範囲でいい」とされています。発注者側が事故を把握した時点でまずは速やかな報告を徹底を浸透させる狙いです。
「特別加入の番号」まで報告事項に含まれる
厚生労働省の説明会(2025-2026年実施)資料等によれば、報告様式には特別加入の承認番号等の記載欄が設けられる予定です。これにより、発注企業としては今後、契約時にこれらの「特別加入の有無と番号」情報を確認しておく体制づくりが、実務上のスタンダードになると予想されます。
実務対応用:フリーランス契約時の確認事項(安全衛生管理)
改正安衛則に基づく報告事項には、「特別加入の承認の有無」が含まれていますが、特別加入するかどうかは現在任意です。また、雇用労働者の労災保険料は全額「企業負担」ですが、フリーランスの特別加入保険料は原則として「本人負担」です。(ただし、優秀な人材確保や安全配慮の観点から、契約時に保険料相当額を報酬に含めるなど、実質的なサポートを検討する企業も増えています)
今回の改正法では新たに生じるこの報告は、統計的な把握や再発防止を目的とした行政上の義務であり、報告を行ったことで注文者に労災保険料を支払う義務が生じるものではありません。しかし報告を怠った場合には、今後は労働者の被災と同様、罰則(安衛法120条等)(※)の対象となる可能性があるため、正確な対応が求められます。
また「行政への報告義務」(安衛法)と「民事上の損害賠償責任」(安全配慮義務)は別物ですが、報告義務化によって「発注者の管理責任」が今後より可視化されることになります。
事故が起きてから慌てないよう、契約時には以下の項目を確認しておく体制を整えておくと安心です。
| 1 | 基本情報 | 氏名、生年月日、現住所、緊急連絡先(本人以外) |
| 2 | 特別加入の有無 | 労災保険の特別加入制度に加入しているか |
| 3 | 特別加入番号 | 加入している場合、その承認番号(報告書への記載が求められる予定) |
| 4 | 特別加入団体名 | 万が一の際、手続きのサポートを受けるための連絡先把握 |
| 5 | 健康診断の受診状況 | 安衛法上の義務ではないが、安全配慮の観点から直近の受診有無を確認 |
| 6 | 安全衛生教育の受講歴 | 業務に必要な資格や、特別加入団体等での教育受講状況 |
また、過去の記事では契約時の実務ガイドや、フリーランス新法に対応した業務委託契約書のひな形を掲載しております。ぜひご活用ください。
フリーランス契約で失敗しないための実務ガイド:企業側の雇用・請負・委任のポイント
【契約書ひな形あり】令和6年11月1日よりフリーランス新法が施行!業務委託契約の留意点は?
※罰則について「50万円以下の罰金(安衛法120条)に加え、悪質な未報告は『労災かくし』として公表や送検の対象となるリスクがあり、企業の社会的信用を大きく損なう可能性があります
【2026年最新】労災保険の特別加入制度の概要と拡大の経緯
特別加入制度の概要
本来、労災保険は「労働者(雇用されている人)」を対象とする制度ですが、労働者以外でも業務実態が労働者と類似している場合、任意で加入できる制度です。
政府は、多様な働き方の増加(ギグワーク、業務委託)を受け、段階的に特別加入の対象を広げてきました。これまで対象外だったフリーランスが、労働者と同様に国の労災保険に加入できる範囲が大きく広がり、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」の施行(2024年11月1日)に合わせて、労災保険の特別加入制度が改正されました。
特別加入制度の対象拡大の経緯
2021年4月1日: 芸能関係作業従事者、アニメーション制作作業従事者、柔道整復師、65歳以上の新規就業希望者などが追加。
2021年9月1日: 自転車配達員(デリバリー)、ITフリーランスが追加。
2022年7月1日: 歯科技工士が追加。
2024年11月1日:すべてのフリーランス(全業種)へと拡大
2025年6月:熱中症対策などが罰則付きで義務化
2026年4月:フリーランスへの安全衛生対策が「努力義務」から「法的義務」へ(改正安衛法の施行)
2027年1月:フリーランスの「死傷病報告」が義務化(改正安衛則の施行)
連合フリーランス労災保険センターの設立について
2024年11月にフリーランス向けの労災保険特別加入制度の対象が全業種に拡大されたことを受け、日本労働組合総連合会(通称:連合)は「連合フリーランス労災保険センター」を設立しました。
フリーランス新法における「特定受託事業者」とは、委託により業務に従事する事業者で、従業員を使用しない者を指します。労働基準法は適用されませんが、労働組合法上の労働者に該当し、同センターを通じて労災保険に特別加入できます。
労災保険・費用の目安
加入者は給付基礎日額に応じた労災保険料のほか、毎月600円を会費として支払う。加入時に入会金4000円、1年ごとに更新料1000円が発生する。
給付基礎日額は従来の特別加入と同様に、3500~2万5000円までの16段階から選択可能で、保険料率は一律0.3%。高い金額を選択すると、その分補償も厚くなる仕組みです。
安全衛生教育というメリット
団体経由で労災保険に加入することで、改正法の追加要件で義務付けられている「安全衛生教育・災害防止研修」を連合本部で受けられるようになります。
企業側は自社で個別に安全教育を行うのが難しい場合、フリーランスに対して「連合フリーランス労災保険センター」のような、安全教育を付帯している特別加入団体への加入を推奨するのも一つの手です。
これは、企業の安全配慮義務を果たす一助となるだけでなく、労災事故が起きた際の報告義務(特別加入番号の把握等)のスムーズな遂行にもつながります。
本改正は、フリーランスを単なる『外部の事業者』ではなく、共に働く『パートナー』として位置づけるものです。
2027年の施行に向けて、今一度、貴社の安全衛生管理体制を見直してみてはいかがでしょうか。
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