「骨太の方針2026」で現役世代の社会保険料は下がるのか?国民負担率の推移とその背景・対策を解説

721日、政府が経済財政運営の指針である「骨太の方針2026」を策定しました。その方針において、医療や介護、年金等の社会保険料が国民所得に占める「社会保障負担率」について、「現役世代の負担率を引き下げる方針」を示しました
具体的には2026年度中に改革内容を具体化し、2027年度の社会保障負担率を2025年度の負担率(17.8%)より上昇させないこととしています。

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026」 ※一部抜粋
社会保障関係費については、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく との方針の下、現場の人材確保、経営の安定、サービスの質の確保等の観点から、医療、 介護、保育、福祉等の公定価格等における適切な対応を図りつつ、国費だけではなく、給 付費全体、公費・保険料負担、現役世代の可処分所得などを踏まえ、給付と負担の改革を 継続する。

今回のコラムでは、現在の日本の社会保険の負担率の傾向と、過去20年の推移と合わせてその問題点を整理しつつ、現代の日本の社会保険料率引き上げを引き起こす社会的背景と、争点となっている負担率を下げる対策についてメリット、デメリットと合わせて解説していきます。

現在までの社会保険料の国民負担率の推移

現代の日本においては社会保険料の負担が年々大きくなっているといわれていますが、実際の負担率はどの程度なのでしょうか。また、過去と比べて負担率はどの程度変化しているのでしょうか。

財務省によると、社会保険現役世代の社会保険の負担割合を示す社会保障負担率(社会保険料が国民所得に占める割合)は2026 17.6%となり、約30年前の199712.7%と比較すると、5%の増加となり、過去20年で増加し続けています。さらに税金と社会保険料を合わせた国民負担率については2026年で45.7%にのぼり、約20年前の35.9%と比較すると10%弱もの増加となり、高い水準となっています。

 財務省「国民負担率の推移」より作成

国民所得はこの数年で過去最高を記録していますが国民負担率は増加の一途をたどっています。なお、社会保障給付は140兆円にも上り過去最高の水準となっていますが、財源は保険料がその給付の半数弱を補填しており、残りが税金となっているため、すでに社会保障給付にあたって保険料だけでまかなえていない状況にあります。そのため、社会保険料引き下げによる浮いた財源をどうするのかという点が課題となっています。

なぜ社会保険料率が高くなっているのか?

では、なぜ社会保険料の国民負担率がここまで高くなっているのでしょう。その背景として以下の二つが大きな要因としてあげられます。

①急激な少子高齢化
日本の社会保障制度は現役世代が支払う保険料でその時の高齢者を支える「賦課方式」をとっています。そのため、医療技術の進歩等により社会保障サービスを必要とする高齢世代が増加する一方で、社会保障の支え手となる現役世代が減少している現代においては、社会保障給付金額は増える一方、現象する現役世代で社会保険料の負担を担う必要が生じるため、結果的に一人当たりの社会保険料負担率が引きあがる仕組みとなってしまいます。

②所得の伸び悩みと可処分所得の減少
「失われた30年」ともいわれるように、バブル崩壊以降の日本の賃金や経済成長は長らく横ばいが続いてきました。それに伴い、賃金(特に額面の給与額から物価変動額を差し引いた実質賃金)は変わらないのに社会保険の負担額は増えていくため、実質の国民負担率の割合が急激に上昇することにつながりました。

また、企業側では賃上げをしていても為替の影響や世界情勢に伴い、物価高の上昇が追い付かないために、実質賃金が伸び悩んでいることの要因ともなります。


厚生労働省「令和4年労働経済の分析」より主要国一人当たり実質賃金の推移
注) 1991を100とした推移を記載。

さらに、所得の伸び悩みによる「可処分所得:自由に使えるお金」の減少が消費の低迷や少子化の加速への負の連鎖を産んでいることも大きな問題となっています。
この「自由に使えるお金」は、「可処分所得」から「消費支出」をさしひいた分に該当します。
なお、可処分所得とは支給される賃金から税負担(所得税・住民税)と社会保険負担(健康保険・厚生年金・介護保険)を差し引いたいわゆる手取り所得を指します。

内閣府「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報」より

 

内閣府の調査結果からもわかるように、社会保険料の引き上げにより可処分所得は数値上増えていますが、その一方で昨今の物価高上昇に伴い、消費支出も増えています。それにより、「自由に使えるお金」が減り、個人消費が伸び悩んでいることが伺えます。
また、この「自由に使えるお金」が減少することで経済的な余裕が奪われるため、特に若い世代において結婚・出産・育児に踏み切れないために、結果として少子化を招いてしまうという悪循環に陥っています。

社会保険料引き下げに有効とされる対策

現役世代の社会保険負担を引き下げるために有効な対策として挙げられているのは、以下の3つになります。しかし、いずれもメリットとデメリットが存在し、現役世代の代わりに実質負担先となる対象者が変わるだけで、誰かが必ず痛みを伴う対策になるという点に注意が必要です。

社会保障水準を下げる
医療や介護サービスそのもののコスト削減をはかり、給付水準を低くするアプローチです。具体的には人口減少により余剰となっている病床の整理や削減、医療DXの推進、市販薬で代替できる薬の保険適用外などの対策があげられています。
医療の無駄を省き、社会保障制度の持続可能性を高めることができる一方、地方によっては医療アクセスが悪化することや、医療水準が低下してしまうこと、上記の対策は効果が出るまでに時間がかかるため、保険料負担軽減の速攻性がないというデメリットがあげられます。

税金による財源の補填
社会保険料として国民から徴収する割合を減らし、代わりに税金から補填を増やすアプローチです。財源を変えるため、即座に国民の社会保険負担率を軽減することができ、即効性のある負担軽減となりますが、財源の穴埋めとして税金を活用することで、将来的に消費税の増税や国債の増発を招く可能性があるため、結局は負担の先送りとなってしまう側面があげられます。

③高齢者の自己負担割合の引き上げ
現役世代の保険料から高齢者の医療・介護費として回されている支援金を減らすために、負担能力のある高齢者に相応の負担を求める対策です。具体的には75歳以上の後期高齢者に対して医療費の窓口負担を所得に応じ3割(現役所得並み)に段階的に引き上げることや、年金や給与だけでなく、金融所得や保有資産も加味して保険料額を定めるといった対策があげられます。
現在最も有力として検討されているのが、この対策となります。現役世代の保険料が直接的に下げられることや経済力に応じた負担を課すため、世代による負担の不公平感の解消となるメリットがある一方、将来の現役世代の負担が増加することや、高齢者の受診控えによる重症化・医療費高額化のリスクもはらんでいます。

対策案

メリット

デメリット

社会保障水準の引き下げ
(コストカット)

・持続可能な社会保険制度の維持
・医療コスト削減

・即効性が低い
→現役世代への直接的恩恵が少ない
・医療アクセスの悪化(地方)

税金による財源確保

即効性のある負担軽減

・負担先送りによる将来的な税金増加

高齢者の自己負担引き上げ

・即効性のある負担軽減
・世代間での不公平感の解消

・受診控えによる医療費増額
・未来の現役世代の負担増

また、これらの対策案についてはどれか一つのみに絞って進めるのではなく、複合的に組み合わせて実行することが有効とされています。そのため、2026年の骨太方針においても医療DXや病床適正化などにより無駄の削減(社会保障水準のコストカット)を行いつつも、富裕層や現役並み所得の高齢者に相当額の負担増を行うことで、現役世代の社会保険負担の軽減につなげることが議論されています。

今回のコラムでは、社会保険負担率の推移と負担率増加となる背景、そして今回議論にあがっている社会保険負担率低減のための対策について解説しました。
賦課方式をとる社会保険制度を運用し、少子高齢化が進む日本においてはどの世代においても現在よりもメリットを享受できる対策を実施することは難しく、どの対策においても一長一短があります。2026年は骨太の方針の具体的な改革内容について、激しく議論がなされる見通しです。

今後はこのような社会保障改革に伴い、社会保障の負担構造が大きく変わる可能性があります。例えば、高齢世代の医療費自己負担の増加により、定年後再雇用などで働く高齢世代がさらに増加することが考えられます。
企業側は、多様な年代、背景をもった従業員の雇用にあたって、賃上げ等の所得改善にとどまらず、従業員の健康管理や短時間勤務制度などの従来の勤務制度に縛られない、柔軟な労働時間の導入や環境整備を検討することが求められます。
全世代の従業員が手取りを最大化しつつも健康に長く働ける職場環境の整備をするために、現時点から労務管理の面で先回りして整えておくとよいでしょう。

「骨太の方針2026」が掲げる社会保険料負担の抑制は、これまで構造的な負担増の影響を受けてきた現役世代、とりわけ若年層の「手取り(可処分所得)」を守り、将来への挑戦意欲を取り戻す上で極めて重要な意味を持つ改革です。
しかし、国家による社会保障改革の成果を待つだけでは、現場の課題は解決しません。定年後再雇用で働く高齢世代の増加や、多様なライフステージを抱える現役世代の参画が進むこれからの組織において、企業に求められるのは「単なる額面賃上げ」にとどまらない本質的な支援です。
社会保険制度には、労働者の福利厚生制度を起源する歴史的背景がありますが、病気やメンタル不調による突発的な離職や手取りの減少を防ぐ「予防的なケアの仕組み」を組織内に組み込むことは、企業の配慮義務であり、責務といえます。
プラットワークスでは、社会保険労務士による適法かつ柔軟な労働環境の制度設計と、オンライン心理カウンセリング「PlaTTalks」を通じた予防的なメンタルヘルスケアを融合させ、全世代の従業員が安心して持続的に活躍できる「自律型組織」の構築を支援してまいります。

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「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。カウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

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