なぜ今「出社回帰」なのか? ~競争優位性の確保と「自律型組織」の視点から考える~

三鬼商事の調査によると20266月時点における東京都心5区のオフィス空室率は1.99%となり、20206月以来の1%台となりました。このようなオフィス需要が高まっている背景としては、企業における本格的な出社回帰の流れが存在しています。

コロナ禍(2020年~2022年)をきっかけに急速に普及したリモートワークは、労働者の住む場所やライフスタイルに大きな変革をもたらしました。しかし現在、Amazon、アクセンチュアやGMOインターネットグループ等が週5日フル出社方針を打ち出すなど、かつて率先してリモートワークを導入してきた大企業を中心に出社回帰の流れが起きています。
ではなぜ今、「出社回帰」なのでしょうか。その背景には、変化の激しい市場環境における企業の生存戦略(競争優位性の確保)としての側面が大きく関係しています。

出社回帰となった背景~市場における競争優位性の視点から~

コロナ禍において半ば強制的に導入されたリモートワークですが、パンデミックが収束した現在は、多くの企業で出社回帰の流れが起きつつあります。企業が出社回帰を選択する背景には、「ニーズが多様化、個別化している市場において、競合に勝ち、持続的に優位性を確保するためには必然的であった」ということが大きな理由です。
具体的な理由として以下四点があげられます。

①偶発的イノベーションの創出
一般的に定量的業務(定型作業)についてはリモートでも効率化が可能です。しかし、ゼロから新しいアイディアを生み出すプロジェクトや正解のない複雑な問題解決においては、対面で議論を交わすことが有利とされています。相手の表情やその場の空気感、ホワイトボードを使用した図面の共有等によって、プロジェクトの合意形成や新たなアイディア創出につながります。また、社内での立ち話や雑談といった偶発的なコミュニケーションから、新たなイノベーションが生まれることもあります。

②意思決定スピードの向上
また、競合他社よりいち早く製品やサービスを導入するためには、市場への価値提供のスピードが非常に重要です。リモート環境におけるメッセージの返信待ちやオンライン会議の日程調整はスピード感が重視される意思決定場面において、決定的なタイムロスをとってしまうことがあります。出社によりメンバー全員が同じ空間に集まることで、その場で疑問解決やプロジェクトの修正が即座に完了し、意思決定速度が向上します。

③暗黙知と組織のノウハウの伝承
企業の競争力を支える「人材育成」において、マニュアル化できない「暗黙知」の継承は出社によって真価を発揮します。特に新入社員や若手社員にとって、身だしなみや挨拶、交渉術等のふるまい、仕事を通したその場の空気感や勘などのノンバーバルな部分は先輩社員のふるまいを見て学ぶことでしか習得できません。

④組織の一体感と全体最適の維持
リモートワークが長引くと各部署が自部門の都合のみで動き孤立化(セクショナリズム)が進行しやすくなります。そのため、経営方針の転換や市場の変化に対応する場合に、対面で直接情熱やビジョンを伝える方が従業員の一体感を高めやすくなります。また、日頃の対面でのコミュニケーションは、他部署との連携における心理的なハードルを下げ、全体最適を維持する土台となります。

企業が市場の競争環境で優位性確保するためには、市場のニーズに合わせた価値提供が必要となります。そして、その価値を最大化できる組織編制を考える時、出社をベースとすることが最適であると判明したため、大企業を中心として自然な流れで出社回帰となったことが考えられます。つまり、出社回帰は、市場での勝ち残りをかけた価値創出の最大化」の視点で自然な最適化の結果といえます。
また、主に大企業がこのようなイノベーションや一体感等を重視し出社回帰へ舵を切る一方で、資金や人材等の経営資源に限りのある中小企業においては、リモートワーク体制を維持しつつ、リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを継続・定着させる傾向がみられます。

中小企業がハイブリッドワークを選択する背景~オフィス縮小の視点から~

中小企業においても出社回帰の流れは起きていますが、主に「オフィスコストの削減」の視点でハイブリッドワークを継続している傾向にあります。具体的にに以下の理由があげられます。

①固定費(賃料・維持費)の削減
都心部を中心にオフィス賃料は大きな固定費の圧迫要因となります。
全従業員が出社するよりも、ハイブリッドワークを選択することでオフィス面積を削減することが可能となります。それに伴い、賃料の他、付随する水道光熱費や清掃維持費などの関連費用も削減することが可能です。

②人件費・採用コストの効率化
ハイブリッドワークを選択しオフィスを縮小することで、出社に伴い定常的に発生する従業員の交通費の支給金額を削減することができます。また、遠方に居住する優秀な人材の採用も可能となるため、特に人手不足となっている中小企業において採用コストの低減や採用力の向上にもつながります。

上記の理由より、中小企業は価値創出の視点というより、コスト削減や優秀な人材確保という視点から、現在もハイブリッドワークを継続している傾向にあることがうかがえます。
基本的にフルリモートでの業務は「市場の競争環境での優位性の確保」という視点では価値提供の幅が小さくなる可能性が高いといわれています。また、若手育成や暗黙知の継承、他部署との連携等の労働者のキャリア形成という視点においても出社の方がより有効に働くことが明らかとなっています。 

出社とリモートワークのメリット・デメリット

では、企業にとっては競争市場において優位性を確立し価値創出するためには、全従業員が出社回帰とするのが最善なのでしょうか。実は企業視点においても、リモートワークが有効に働く場合もあります。
各働き方のメリット・デメリットは以下にまとめられます。

出社 リモートワーク
メリット ・偶発的イノベーションの創出
・暗黙知の継承と若手育成の容易さ
・組織の一体感と全体最適の醸成
・意思決定スピードの向上
・固定費(賃料・維持費)や交通費の削減
・遠方人材や制限のある優秀層の確保
・個別集中業務における生産性向上
・災害発生時でも事業を継続できる体制が整う
デメリット ・オフィスコスト、通勤コストの増大
・育児、介護世代等の採用機会喪失
・災害等の緊急事態における業務停止リスク
・偶発的なイノベーション機会の減少、部署間連携の希薄化
・評価やパフォーマンス管理が難しい
・セキュリティリスクの増大
・暗黙知や組織カルチャー伝承の難しさ

以上のことから、出社・リモートワークのどちらが絶対的に正しい働き方である、といえません。
例えば、出社回帰のトレンド下において、子育てや介護を行う人、障がいを持つ人、あるいは海外・遠方に居住する人など「強い労働意欲があるものの、出社が物理的に制限されてしまう労働者」にとって、「リモートワーク」という選択肢は、「従来ではできなかった価値創出を生み出す機会」を提供する重要な手段となります

これから企業に求められる「自律的な働き方の選択」

以上のことから、出社回帰は、市場の競争で優位性を確保するための最善の選択肢としての自然な適応化の流れとも言えます。コロナ禍をきっかけに普及したリモートワークは、多様な事情を抱える労働者にとって、市場から排除されず、活躍し続けるための「重要な社会インフラ」となりました。また、深刻な人手不足が続く現代において、このような多様な人材の可能性を最大限に引き出すことは企業の持続的な成長において不可欠です。

だからこそ、出社がもたらす「偶発的イノベーションや組織の一体感の醸成」といった強みを大切にしつつ、全従業員に対して一律で出社を強制するのではなく、従業員一人一人の置かれている状況を踏まえて、いかにして最大の価値を創出できるか」を考えて従業員自らが最適な働く環境を選択できる仕組みづくりが、真の競争力を生み出します

こうした「競争力の確保」と「多様で柔軟な働き方」を両立する組織づくりに向けて、プラットワークスでは、社会保険労務士による適法かつ柔軟な労働環境の制度設計と、オンライン心理カウンセリング「PlaTTalks」を通じた予防的なメンタルヘルスケアを融合させ、全世代の従業員が安心して持続的に活躍できる「自律型組織」の構築を支援してまいります。

関連サービス

企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalks

「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。カウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

関連サービス

制度構築

弊法人は、就業規則や評価制度の整備、業務改善支援など制度構築の支援を行っております。貴社の事業特性を組織風土を踏まえた運用しやすい制度をご提案することにより、貴社の社員の力を引き出し、事業のさらなる発展に寄与します。

専門業務型・企画業務型裁量労働制の違いを労働基準法の条文構造から読み解く
専門業務型・企画業務型裁量労働制の違いを労働基準法の条文構造から読み解く

働く自由をすべての人に

子どもの頃、お手伝いをしながら、理由もなくワクワクしたあの気持ち。
そんな「働くことの楽しさ」を感じられる組織をつくるために私たちは常に問いかけます。
「本当に必要なルールとは何か?」
「心は自由で、のびのびと働けるだろうか?」
私たちは自分の「夢」を信じ、社会で挑戦する人々をサポートし続けます。
すべては、世界の可能性を広げるために。